裁判例
Precedent
事案の概要
夫婦の婚姻後の同居期間は、約5年間であり、その後の別居期間は約25年に及んだ。
別居期間にあっては、夫から妻に生活費等の支払いがなされていなかった。
そのため、妻が離婚を求めて夫婦関係調整の調停を申し立てたものの、夫は、正当な理由もなく調停期日への不出頭を繰り返した。
<争点>
審判によって離婚をすることはできるか
<判決の内容>
裁判所は、婚姻後の同居期間が約5年に及ぶことと比較して,別居期間は約25年に及んでおり,その間夫から妻に生活費等の支払いがなされていなかったことなど,申立人と相手方との夫婦関係は20年以上にわたって形骸化しており,婚姻関係を継続し難い重大な事由があることが明らかである上,誠実に申立人との離婚の話合いに応じようとしないなどの事情にかんがみると,家事審判法24条により夫婦を離婚させる審判をするのが相当であるとした。
まとめ
本件は、別居期間中、妻から夫に対し、離婚の打診をしたものの、夫が離婚を拒否する態度をとっており、それ以降、調停期日を経ても、妻は、夫の離婚意思を確認できませんでした。
裁判所は、夫婦関係はもはや形骸化しているとして、婚姻を継続し難い重大な事由があるとの判断を下しました。
本件のように、同居期間に比べ、相当長期間の別居が認められる場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」は肯定されやすいことは、裁判例の傾向から明らかです。
しかし、裁判所としては、どれだけ長期間に及ぶ別居期間が認められようと、調停という話合いの場では、夫婦を離婚させるとの決定をすることはできません。
そこで、妻の申立に従って、審判という手続に移行することになりました。
審判手続に移行する場合、裁判所は夫婦を離婚させるとの判断をすることになるため、家庭裁判所の調査官を通じて、話合いに応じない相手方の動向を綿密に調査することになります。
現に本件でも、全く話合いに応じない夫の家に、調査官が訪問するなど、事前の調査がなされました。
本件のように、「婚姻を継続し難い重大な事由」が肯定されやすい事案では、調停が不調に終わった場合、訴訟への移行を検討する余地もあります。
もっとも、審判に移行した方が、早期解決を見込める場合もありますので、どのような手続を踏むべきかという手続選択の問題については、事案によって個別的な判断が必要になります。
家事事件手続法
本件で適用された家事審判法は、すでに廃止されています。
現在では、新たに「家事事件手続法」が施行されています。
家事審判法(旧法)24条は、「家庭裁判所は、調停委員会の調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、当事者双方のため衝平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のため離婚、離縁その他必要な審判をすることができる。」と定めていました。
しかし、家事事件手続法(新法)では、「家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判をすることができる。」と規定されているため、相手方が出頭せず、話合いに協力しない場合、審判に移行しやすくなりました。
本件は、裁判所が審判をすることが困難な旧法下において、裁判所による調査が実施され、相手方の意向を確認するまでに至った、極めて異例な事例であるといえます。
法改正によって、家庭裁判所における審判の利用は容易になりましたが、家事事件手続法の下であっても、調停から訴訟に移行した方が、早期解決に資する事例は多々存在します。
手続の選択一つによっても、結果が大きく変わる場合がありますので、手続の進め方についてもあらかじめご相談いただくことが重要です。