親権とは?親権者になる基準について
1.親権とは
親権という言葉は、日常的にも耳馴染みがあると思います。
親権とは、簡単に言えば「未成年の子どもの成長に対する、包括的な権利・義務」といえます。
未成年の子どもは、判断能力が十分でなく、精神的にも経済的にも自立できません。
したがって、そういった未成熟な子どもを、一人前になるまで見守り、育てあげる役割が必要です。
それが、いわゆる「親権者」です。
親権というと、親が子に対して持つ「権利」というイメージですが、実際は表裏の関係として、親が子に対して持つ「責任(義務)」でもあります。
これは条文上も明らかで、民法では下記の様に規定されています。
820条 「親権を行う者は、子の利益のためにこの監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」 |
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親権は、あえて分類すると下記の様に分けられます。
- 身上監護権
- 財産管理権
①の身上監護権は精神的な自立を助けるための役割であり、子どもを教育したり、叱ったり、居所を指定したりすることが求められます。
②の財産管理権は経済的な自立を助けるための役割であり、子どもの財産を管理したり、子ども自らが契約などをする際に代理をしたり同意をしたりすることが求められます。
親は、これらの権利をうまく行使して、子どもの成育に貢献することが求められているのです。
2.離婚の際には、親権者を定める必要がある
父母は、婚姻している状況では、原則として上記のような親権を共同で行使します。
しかし、ひとたび離婚をするとなれば、父母どちらかを単独の親権者として定めなければなりません。
たとえば、円満に離婚をするような場合にも、離婚届には父母の一方を親権者と定めて届けなければ受理されません。
これは、離婚をすると、多くの場合父母は別居することとなるため、子どもに対する大きな権利と責任である親権を、これまでのように相談しながらうまく行使していくことが困難となるからです。
このため、お話し合いで離婚をする場合には、そのお話し合いの中で親権者を決めることになりますし、裁判で離婚をする場合には裁判所が一方に定めることになります。
3.親権者となるための基準
父母のどちらが親権を持つかについては、争いとなることも少なくありません。
協議や調停の場でのお話し合いで定まればよいですが、双方が譲らなければ最終的には裁判所が判断することになります。
この場合、裁判所は、さまざまな事情を総合的に考慮して、いずれの親に親権を認めるほうがより「子どもの福祉、子どもの利益」になるか、という観点から定めることになります。
その判断のためには、一律の基準のようなものはありませんが、代表的な考慮要素はいくつか上げることができます。
(1)(乳幼児期における)母性優先
従来特に重く考慮されていたのが、「母性優先」というものです。
つまり、乳幼児期は母親の存在が心の成長に不可欠である、というような考え方がされていました。
しかし、近年は子育てについての父母の役割分担意識にも変化が生じており、単に「母親であること」を重視するのではなく、子どもが誰とどういう精神的な関わり合いを持っているかという点を考慮すべきとされてきています。
たとえば、母が職業を持ち、父が主夫として家庭に入っているような場合には、いわゆる「母性」は父が担っていることもありますし、両親が共働きで、父方(または母方)の祖父母が子どもの面倒を見ているような場合には、祖父母が「母性」を持って子どもと関わっているといえることもあります。
(2)子の意思の尊重
親権者が誰になるかというのは、子どもの生活やその後の生育に直結する問題です。
したがって、意見表明できる年齢の子どもに対しては、意思を確認する必要があります。
もっとも、そもそも子どもの意思決定は未成熟であることから、必ずしも子どもの意思に任せることが、子どものためになるとは限りません。
特に、まだ年齢が低い場合には、親や周囲の人間からの影響を大きく受け、客観的な判断をすることは難しくなります。
したがって、子どもの意思に無条件に従うのではなく、あくまで意思は尊重しつつ、子どもの利益についてを検討する必要があります。
(3)監護の継続性
基本的には、未成熟な子どもは、その生活環境がころころと変わらないほうが情操的にもよいと考えられています。
そのため、たとえば離婚前から別居しているような場合には、現在同居している側の親のもとで、安定した生活ができているのであれば、その状態を継続させるべきと考えられます。
しかし、そうであるとすると、親権がほしい場合には子どもとの同居状態を作出してしまえばよいという考え方を後押ししてしまいます。
そのため、監護開始の時点で、実力行使や違法な行為があった場合には、それをする必要性があるなど特段の事情がない場合以外は、その親には親権を認めないなど、裁判所の考え方も変わってきています。
(4)兄弟姉妹不分離の原則
子どもが兄弟姉妹の関係にある場合、可能な限りともに生育していく方がよいと考えられています。
これは、兄弟姉妹は、精神面や情緒面でつながり合いが強いので、離れ離れになってしまうと、精神的な生育によくない影響が生じてしまう恐れがあるからです。
もっとも、上のみっつに比べれば、あまり重要視されている要素ではありません。
(5)その他
その他はさまざまな事情になりますが、
・子への愛情や、養育に対する意欲
・経済的な問題
・養育環境の準備
・周囲の理解や協力
などの条件を双方で比較することになります。
4.不貞行為をしたら親権は認められないのか
たまにある質問で「自分が浮気をしたので親権者にはなれませんか」「相手が不倫をしたので親権は認められませんよね」というものがあります。
しかし、実のところは、仮に不貞行為という離婚原因となる行為を行っていても、それだけを理由に親権が認められなくなることはありません。
なぜならば、親権者の決定は上でも見たように、さまざまな事情から「子どもの福祉」のためにどうするべきかを考えて行うからです。
場合によっては、不貞行為を行っている親が、親権者としてはふさわしくないという判断もあるかもしれませんが、結局のところは、「どちらが親権者となることが、より子どものためといえるか」という観点で判断されます。
5.親権者は後で変更することは可能なのか
離婚に伴う財産分与や、慰謝料の請求などは、離婚の時点で行わずに後から請求することも可能です。
しかし、上記のとおり親権者の決定は離婚をする時点で行う必要があります。
では、まずは書類上は親権者を父または母として離婚しておき、後できちんと話し合いをして親権者を定める、ということはできるでしょうか。
こたえは、「No」です。
親権は上で見たとおり、とても重大な権利であり責任でもあります。
これが、父母の意思だけであっちにいったりこっちにいったりしてしまうと、子どもが大変になってしまいます。
そのため、一度決めた親権者は簡単に変更することができず、変更が必要かどうかは家庭裁判所が決定します。
したがって、最初に十分な議論と検討を尽くして定めておく必要があるのです。
6.フレンドリーペアレントルールとは
父母が離婚をするという場合、双方がいがみ合ってしまっていることも多くあります。
そのような場合、愛する子どもの親権を得たいと思う反面、相手方と子どもとは会わせたくないと感じてしまいがちです。
しかし、親権を得るためにはそのような考え方が弊害になることもあります。
これはフレンドリーペアレントルールと呼ばれるもので、噛み砕くと「親権者となりたい親が、非親権者と子どもとの交流について、どこまで非親権者を信頼し、協力できるか」という考え方です。
子どもは、たとえ両親が離婚しようとも、どちらの親とも親子関係は継続します。
したがって、非親権者とも面会交流することはできますし、したほうが子の生育のためにいいとされています。
そんな中で、親Aは「相手は信用できないから、自分が親権者になったら一切面会交流はさせたくない」と主張し、親Bは「自分が親権者になったら、可能な限り相手方との面会交流に協力したい」と主張したとします。
どちらを親権者と定めたほうがより子どものためかというと、フレンドリーペアレントルールからすれば、後者である親Bとされるでしょう。
このような考え方は、最近裁判所でも採用されることが多くなってきています。
まとめ
親権は子どものために権利であり、子どもに対する責任です。
親権を得るためには、いかに自分が親権者となることが子どもにとって有益であるかという点をきちんと説明できることが求められます。
どうすることが子どものために最善な選択肢なのか、ぜひ弁護士と一緒に考えていきましょう。
お気軽にご相談ください。
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