婚姻費用の分担とは?きちんと受け取るための3つの注意点
1.婚姻費用の分担とは
「婚姻費用」、「婚費」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
あまり耳なじみがないかもしれません。
この「婚姻費用」、「婚費」とは、簡単に言えば、家族が生活を営む上で必要となる生活費のことを言います。生活費と一般的に使われていることもあります。
具体的には、住居関係費、食費、被服費などの衣食住にかかる費用や、お子さんがいればその学費なども入ります。
これらの、家族が生活していくために必要な費用は、原則として夫婦で分担することになっています。
これは、必ずしも夫婦でお金を出し合うということだけを意味するわけではありません。
つまり、仮に一方配偶者が専業主婦(主夫)であったとしても、そのように家事一切を行ってくれているから、他方配偶者は仕事に従事できると考えられますから、その他方配偶者は給与から金銭を支出する必要があるのです。
そして、この考え方は夫婦が別居している場合であっても変わりません。
本来分担するはずだった費用を、一方が多く負担している場合には、他方に対して一定金額の支払いを請求することができます。
この婚姻費用の請求を婚姻費用分担請求といいます
2.「婚姻費用」の算定方法
少し専門的な話になりますが、日本の民法では、親族間では助け合いましょうという考え方が採用されています。
そのため、通常の親族間では、「生活扶助義務」という義務があり、夫婦や親子間で「生活保持義務」という義務が定められています。
簡単に言い換えると、生活扶助義務というのは、自分に余裕があれば助けましょうということです。
たとえば、兄弟姉妹が生活苦になっているときに、自分に余裕があれば手を差し伸べてあげましょうということです。
それに対して、生活保持義務とは、相手の生活水準を自分の生活水準と同等に維持しましょうということです。
たとえば、夫婦で収入差がある場合に、「自分のことは自分でやってね」と無関心になってはいけませんということです。
生活保持義務は、生活扶助義務よりも強い義務になります。
婚姻費用は、上記生活保持義務の考え方が根底にありますので、家族全員の生活費を夫婦の収入割合で按分して負担することになります。
婚姻費用分担額を具体的に算定するためには、少々複雑な計算をする必要がありますが、簡易迅速に判断するために、裁判所が算定表を公表しています。
<「養育費・婚姻費用算定表」についてはこちらからダウンロードできます>
これは、婚姻費用をもらう側を「権利者」、婚姻費用を支払う側を「義務者」とし、双方の収入と家族構成から分担額を一覧化したものです。
これにより、婚姻費用分担額の水準を簡単に算定することができます。
たとえば、夫婦と10歳の子どもが1人の家族で、夫の収入が600万円、妻の収入が200万の場合、算定表によれば、婚姻費用の分担額は8万円から10万円程度となります。
3.婚姻費用分担額が決まるまでの手続き
婚姻費用の分担は、別居をしている夫婦間で問題になることが多いです。
そして、婚姻費用の分担額は、夫婦間で合意ができれば自由です。
そのため、お話し合いができる場合には、上記の算定表などを参考に、協議によって金額を決めて支払ってもらうという場合も多いと思います。
もっとも、別居となってしまっている以上、当事者同士の協議では決まらない場合もあります。
また、算定表はあくまで一般的・抽象的な水準を示してあるだけなので、具体的な事情に応じて修正がなされることもあります。
このように事情によって当事者同士の協議で決まらない場合には、家庭裁判所で婚姻費用分担請求の調停を行って婚姻費用を定めることができます。
調停では、夫婦双方が婚姻費用についての具体的な事情を、第三者である調停委員に主張し、それを証明する資料を提出し、調停委員が双方の言い分を汲み、資料を確認しながら双方が納得できる金額を探っていくことになります。
たとえば、
・夫婦の一方が病気がちであり医療費が通常よりも多くかかる
・子どもが私立学校に通っており学費が通常よりも多くかかる
・夫の所有するマンションに妻と子が住み続けており、夫がマンションのローンと自身の住居費を二重に負担している
など、さまざまな事情をもとに、具体的に妥当な婚姻費用の分担額を検討することになります。
調停でも合意に達することができなかった場合、調停は審判手続きに移行します。
審判では、調停で主張されてきたさまざまな事情を総合的に考慮して、裁判官が妥当な金額を認定することになります。
4.婚姻費用をきちんと受け取るための3つの注意点
以上のように、婚姻費用の分担は婚姻関係にある夫婦間では、原則として当然に認められるものです。
生活のためにとても大切な権利なので、きちんと受け取るために、いくつか注意点があります。
(1)別居となってしまったら、なるべく早い段階で婚姻費用分担の請求をする
現在、裁判所の多くは、婚姻費用の分担は「請求したときから」認めるという考え方を原則としています。
そのため、別居から1年経過してから、「過去の分も支払ってください」と請求をしても、すでに経過している分の期間については請求が認められない可能性が高くなってしまいます。
もちろん、事情によっては例外的に認められることはありますし、これから支払われる婚姻費用分担額の算定の中で考慮されることはありますが、十全に婚姻費用の分担を受けるためには、なるべく早く請求を行うことが大切です。
(2)協議で決まった場合には公正証書を作成する
婚姻費用分担については、上記のように協議で決まる場合と調停・審判で決まる場合があります。
このうち、調停及び審判で決まった場合には、それぞれ調停調書・審判書という書面が裁判所によって作成されます。
この書面があると、「誰が、誰に対して、いつまでに、いくらを支払う」という内容が公的に認められたという証明ができるため、仮に支払われなかった場合には直ちに強制執行をすることができます。
しかし、協議で決まった場合には、たとえ協議書や念書を作成していたとしても公的な証明がないため、すぐに強制執行をすることはできません。
そこで、協議内容について公的な証明を得るために、公正証書を作成することをお勧めいたします。
この公正証書を作成し、これに執行認諾約款を付しておくことで、当事者同士で定めた内容でも、支払いがなかった場合に、すぐに強制執行をすることができるようになります。
(3)黙って出て行くのは控えたほうがよい
夫婦は、原則として同居協力扶助義務があります。
婚姻費用の分担も、そのように協力して生活していく上で、費用負担も分け合いましょうという考え方によるものです。
しかし、例えば、自ら勝手に出て行った夫や妻が、婚姻費用の分担請求をしてきたとしたらどうでしょう。
自ら率先して分担をやめてしまったと捉えられ、婚姻費用の分担の一部や全部が認められなくなってしまうかもしれません。
不貞や悪意の遺棄といった、離婚事由に該当するような事情が背景にあって別居にいたった場合には、これらの事情も分担額の算定に考慮されることもありえます。
もちろん、夫婦喧嘩が多い、夫や妻からDVを受けている、夫または妻が不貞をしていて耐えられない等、相応の事情があれば、別居もやむを得ないでしょう。
特に、DVがある場合には、早期に黙って別居することを強くお勧めいたします。
しかし、逆に婚姻費用の分担を請求する側に、大きな原因があるような場合には、請求が認められない場合もあり得るので注意が必要です。
まとめ
婚姻費用の算定は、上記の婚姻費用算定表が作られたことによって大幅に簡易迅速化されることになりました。
しかし、この算定表が作成されたのは2003年のことで、すでに15年が経とうとしています。
この間に算定表によって婚姻費用を定めた夫婦は大多数に上りますが、必ずしも現実的に生活保持義務を尽くすのに妥当な金額だったとは言えないケースも多々生じています。
また、算定表が作成されたときと現在では、税率や経済情勢も変わっています。
そこで、2016年、全国の弁護士が所属する団体である日本弁護士連合会は、新たな婚姻費用の算定表を提言しました。
これによると、これまでの婚姻費用分担額から大きく増額することがあります。
例えば、上記で例に出した、夫婦と10歳の子どもが1人で、夫が年収600万円、妻が年収200万円の家族の場合、新算定表によれば婚姻費用の分担額は15万円程度となります。
これまでの算定表からすると5万円の増額となります。
未だ、新算定表での算定が全国の裁判所で採用されているとは言えない状況ではありますが、これまでの算定表に当てはめて婚姻費用を定めるだけでは、適切な金額が算出できない場合は多くあります。
婚姻費用の分担について不安なことがありましたら、一度弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
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