交通事故の裁判の流れや訴訟内容について弁護士が解説!

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「保険会社に提示された示談内容に不満だけど、裁判をしたら金額が上がるかわからない」
「もし裁判になったら、手続がどのような流れで進み、どのようなことをするのだろうか」
「弁護士に裁判を依頼する前に、裁判の流れについて知っておきたい」

このようにお考えの方のために、この記事では、交通事故の裁判及び裁判の中でなされる訴訟活動の内容並びに交通事故訴訟で争われることが多い点(争点)をご説明します。

この記事を読んでいただければ、訴訟手続の流れ、訴訟活動の内容等について大まかなイメージを持っていただけるはずです。

本記事では、まず訴訟提起から訴訟終結までの流れ及び訴訟活動の内容をご説明したうえで、裁判の中で実際に争われることが多い点をいくつか紹介していきます。

1.訴訟の提起まで

訴訟は、裁判所に訴えることによって開始されます。

ここでは、訴訟の提起に至るまでの準備や検討すべき事項についてご説明します。

(1)弁護士に相談

加害者側の保険会社から提示された賠償金の内容に不満があったり、疑問に思う点がありましたら、まず弁護士にその金額が適正なものかどうか確認することをお勧めいたします。

なぜならば、保険会社が提示する賠償金額は裁判で認定されるであろう金額を大きく下回り、適正な賠償金額ではないことが多いからです。

弁護士であれば、裁判で認定されるであろう金額を基準に示談交渉をしますので、適正な賠償を得ることが期待できます。

そのため、少しでも疑問や不満に感じる点がありましたら、弁護士と相談し、示談交渉を弁護士に依頼することを検討された方がよろしいでしょう。

(2)訴訟提起の検討

示談交渉を依頼された弁護士は適正な金額で示談するために保険会社と交渉をしますが、必ずしも示談交渉で合意に至るわけではありません。

保険会社が適正な賠償額の支払いを拒むケースも多くあるからです。

その場合に、適正な金額の賠償のために考えられる手段が裁判(訴訟の提起)となります。

具体的には、訴訟を提起し、裁判(以下「訴訟手続」といいます。)の中で適正な賠償金額を主張し、裁判所にそれを認定してもらいます。

訴訟手続は、示談交渉以上に専門的な知識と経験を要しますので、示談交渉と同じく、弁護士に訴訟手続の依頼を検討された方がよろしいでしょう。

2.訴訟手続の流れと訴訟活動の内容

訴訟の提起は、以下の順序で手続が進行していきます。

  1. 訴状の提出
  2. 被告からの答弁書の提出
  3. 第1回口頭弁論期日
  4. 続行期日
  5. 最終準備書面の提出・判決の言い渡し

それぞれの段階でどのような活動が行われるのかも合わせて押さえておきましょう。

(1)訴状の提出

訴訟の提起は、訴状を裁判所に提出することによって行います。

訴状に記載される内容は、加害者に対して請求する損害賠償額やその原因となる事実(事故内容等)等です。

この訴状には、訴訟を提起した人(原告)の主張がわかるように記載しなければなりません。

訴状の提出先の裁判所は、事件毎に異なり、交通事故の場合は事故が発生した場所や加害者の住所地を管轄する裁判所です。

訴状を裁判所に提出すると、初回の期日(以下「第1回口頭弁論期日」といいます。)が指定され、裁判所は加害者(被告)に対し訴状(の副本)を送達します。

この訴状の加害者への送達方法は、実務上、郵便による方法がとられることが大半です。

(2)被告からの答弁書の提出

殆どのケースでは、訴状の送達を受けた加害者側(被告)から、答弁書という書面が裁判所と訴訟を提起した側(原告)に提出されます。

答弁書とは、要するに訴状に対する反論書面のことです。

答弁書に記載される内容は、訴状に記載されている事実の認否(訴状に記載されている事実を認めるか否か)や被告の主張(原告の主張に対する反論)となります。

(3)第1回口頭弁論期日

当事者から、訴状・答弁書が提出され、いよいよ裁判所に出廷です(なお、答弁書を提出した被告は実際には出廷しないことがほとんどです。)。

第1回口頭弁論期日では、まず、裁判所書記官が事件番号を口頭で読み上げて、原告(代理人弁護士)が訴状を陳述します(「陳述」とは口頭で訴状の内容を述べることをいいますが実際に訴状の記載を読み上げるわけではなく陳述する旨を述べるだけです。)。

答弁書を提出した被告側は、実際には出廷しないことがほとんどですが、不出廷の場合でも答弁書は陳述されたものとして扱われることになります(これを陳述擬制といいます。)。

実務上は、被告が出席しないことが多いので、陳述擬制となることが多いです。

訴状(と答弁書)の陳述(陳述擬制)が終わると、次回期日の日時や次回期日までの準備事項を出頭した当事者と裁判所とで確認します。

期日内で、次回期日までに、原告と被告のどちらが、どのような書面や証拠を提出するかが確認されるのです。

具体的には、被告が答弁書に具体的な認否や反論を記載していない場合は、被告側が次回期日までに認否・反論を記載した主張書面(これを「準備書面」といいます。)を作成して提出することになります。

他方、被告が答弁書において一通りの認否・反論を行っている場合には、原告側が次回期日までに再反論ないし主張の補充を記載した準備書面を作成して提出することとなるのです。

(4)続行期日

第1回口頭弁論期日に続く期日について、その概要とその後に起こりうる手続の流れは以下のとおりです。

#1:続行期日の概要

第1回期日の続きを続行期日といいます。

この続行期日では、当事者双方が相互に主張・反論を行い、事実についての認否を行い、適宜証拠を提出します。

このような当事者による訴訟活動を通じて、争いのある事実と争いのない事実(当事者双方が認めている事実)とに整理されるのです。

また、争いのある事実のうち、裁判所が証拠によって事実認定をする必要のある事実とその必要のない事実に整理されます。

更に、証拠によって事実認定する必要がある事実のうち、当事者本人・証人の尋問により立証する必要のある事実とその必要のない事実(書証によって容易に認定しうる事実)に整理されます。

要するに、続行期日とは、当事者双方が主張(準備書面)や証拠(書証)を提出しあって、争いのある事実(争点)について主張と立証を行うための期日です。

#2:和解の勧試

続行期日で、原告・被告の主張・証拠(書証)が提出され尽くすと、裁判官が原告・被告に和解案を提示することが多くあります。

なぜならば、原告と被告が歩み寄れるのであれば、和解をした方が双方のためになると考えられるからです。

これを和解の勧試といいます。

和解案では、損害の総額のみならず損害項目ごとの金額が示され、過失割合が問題となる場合は、双方の過失についても示されることが多いです。

裁判所が提示する和解案を双方が同意すると、和解が成立し、判決と同じ効力を持つ和解調書が作成されて、訴訟は終結します。

反対に、原告又は被告が和解案を拒否すると、証人尋問・当事者尋問という手続に進みます。

なぜならば、判決を言い渡すためには、当事者の発言(供述)を聞き、事実関係を詳細に調査しなければならないからです。

実際の交通事故訴訟では、証人尋問・当事者尋問まではいかないで、裁判所から示された和解案の内容で当事者が合意することの方が多いと言えます。

なぜならば、証人尋問や当事者尋問で、裁判所が提案した和解案の内容を、大きく変えることは難しいからです。

訴訟の提起から和解に至るまでの期間は、事故内容によって変わりますが、概ね半年から1年程度といえるでしょう。

(5)最終準備書面の提出・判決の言い渡し

証人尋問・当事者尋問が行われた場合、代理人弁護士は、最後の準備書面(最終準備書面)を作成して提出します。

最終準備書面は、それまでの準備書面とは役割が異なり、新たな主張を追加することを目的とする書面ではありません。

最終準備書面は、既に主張した事実と証拠(尋問の内容を含みます。)を結びつけて裁判所を説得するための書面です。

最終準備書面を提出すると、口頭弁論が終結し、いよいよ判決の言い渡しをする期日(判決言い渡し期日)となります。

判決言い渡し期日とは、その名のとおり、裁判官によって判決が言い渡される期日です。

判決言い渡し期日では、まず当事者の出頭確認がなされますが、判決の言い渡しは当事者が在廷しない場合においてもすることができるとされています。

そのため、実務の大半の事件では、当事者は判決言い渡し期日に出頭しません。

判決言い渡し期日が終わると、裁判所は、判決書の正本を当事者に送達することになります。

これによって、当事者は判決の内容を確認することができるのです。

そして、判決書の送達を受けた日から2週間が経過することによって、判決は確定します。

判決内容に不服がある場合は、上記期間内に控訴することによって、判決の確定を防ぐことができますので、判決内容に不服がある場合は控訴を選択しましょう。

3.交通事故で多くみられる争点

訴訟手続の流れ及び訴訟活動の内容は上記のとおりです。

次に、交通事故裁判において当事者間で争われる点(争点)として、代表的なものを、いくつか紹介します。

(1)過失割合

過失割合とは、交通事故が発生したことについての当事者の責任の割合をいいます。

追突事故等の一方に責任がないことが明らかな場合を除いて、裁判では過失割合が争点になることが多いです。

当事者は、道路交通法等の法令や過去に積み重ねられた裁判例を駆使して、自分に有利な過失割合を主張し、主張内容を証拠によって立証します。

提出される証拠は、ドライブレコーダーの映像、刑事記録や民間の調査会社が作成した報告書等多岐にわたり、事案によって様々です。

(2)損害額

交通事故による損害項目(損害の種類)は、治療費、慰謝料、逸失利益等様々です。

また、同じ損害項目であっても、怪我の内容や被害にあった方の属性によって、金額が異なります。

この点について、交通事故による損害項目の一つである逸失利益を例に説明します。

まず、逸失利益とは、交通事故によって後遺障害が残り、事故の前のように働けなくなったことにより(労働能力が喪失したことにより)、見込まれる将来の減収分のことです。

後遺障害にも程度の差があり、重い後遺障害ほど労働能力の喪失の割合(労働能力喪失率といいます。)が大きく、損害額が大きくなります。

また、同じ内容の後遺障害でも(同じ労働能力の喪失率でも)、収入が高い人の方が減収分は大きいといえます。

このように、交通事故による損害は、怪我の内容や被害にあった方の属性によって、金額が異なるのです。

そのため、怪我の内容や被害にあった方の属性について、多くの交通事故訴訟で争点となります。

まとめ

以上のとおり、本記事では訴訟手続の流れ及び訴訟活動の内容並びに交通事故訴訟で多く見られる争点をご説明しました。

交通事故の裁判について、おおまかなイメージを持つことができたと思います。

このように、適正な賠償額を得るためには弁護士と相談したうえで、訴訟の提起に踏み切ることが必要です。

本記事を読んで、裁判をするべきかどうか、裁判になった場合に認定される金額等、裁判について疑問がある方は弁護士への相談を検討されるのがよろしいでしょう。

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