借金の時効援用
借金には「時効」があります。
こちらをご覧の皆様の中には「時効だったら本当に払わなくていいのか」「何年経過したら時効になるのか」など、時効手続きについてご心配な点がある方もいらっしゃるかと思います。
この記事では時効を迎えた借金の時効の援用についてご説明します。
時効の援用は慎重に行うべき手続きで、様々な注意事項があります。
この記事の内容を踏まえ、無事に手続きが完了するように進めていきましょう。
1.借金の時効の援用とは
(1)借金の消滅時効
消滅時効とは民法第166条1項において下記の通り定められています。
「債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。②権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。」
債権は一定期間経過すると消滅します。
これを消滅時効といいます。
債権者は権利を行使せずに放置している場合には、時効により借金を請求する権利が消滅するため、返済をしなくてもよいことになります。
(2)時効の援用とは
時効の援用とは民法第145条において下記の通り定められています。
「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三者取得者その他権利の消滅について正当な利益を有するものを含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」
上記のとおり、時効は時効期間が経過したうえで、当事者が「時効の援用」をする必要があるとされています。
(3)時効の援用手続きとは
時効の援用手続きについては特定の方法が法律で定められているというわけではありません。
そのため、債権者に対して時効援用の意思が伝わるのであれば、口頭、電話、書面等、どの方法でも行うことはできます。
しかし、実際には「時効援用通知書」というような時効を援用することを記載した書面を債権者に送付して時効援用を行う方法をとることが多いです。
時効援用は重要な通知であることから、「聞いていない」などと争いになることを避けるためにも書面での通知が好ましいでしょう。
また、時効援用通知書は債権者が受領したことを確認できるような方法(FAXの送信履歴、内容証明郵便等)で送付することで、万が一請求をされても証拠として提示することができます。
(4)時効の援用手続きの手順
弁護士に時効の援用手続きを依頼した場合は下記の流れで手続きを行います。
#1 債権者から取引履歴を取り寄せる
まずは時効かもしれない債権の取引履歴を確認して、時効期間経過しているかどうか、時効中断事由の有無を確認するため、各債権者へ履歴開示を依頼します。
#2 取引履歴を確認する
債権者から取引履歴を受け取ったあとは、過去の取引を確認します。
確認する点としては「最終取引日」、「債務名義の取得有無」等になります。
有担保債権の場合は担保権を実行されている可能性があるため、その内容についても資料を取り寄せて確認します。
#3 時効中断事由がないか確認する
取引履歴を確認後、債権者に連絡し時効中断事由の有無を確認します。
取引履歴に記載されていないことであれば、その資料を取り寄せて、さらに精査します。
#4 時効援用通知書の送付
前項にて時効中断事由がないことを確認できたら、時効援用通知書を作成して送付します。
時効援用通知書に必ず記載する情報は①送付日、②宛先として債権者名、③債務者の氏名住所、④代理人の住所氏名連絡先、⑤どの債権について時効を援用するのか特定する記載(例:貸金返還請求債権など債権の種類、契約した日付等)、⑥「最終取引日から5年(もしくは10年)経過しているため、消滅時効を援用いたします」等、時効援用する旨の記載です。
#5 時効援用通知書の送付後
ファックスで時効援用通知書を送る場合には、受領書を添付して債権者からの返送を依頼します。
受領書ではなく別途債権者所定の債務不存在証明書を送付してもらう場合もあります。
受領書や債務不存在証明書は、時効援用手続きを行った証明書類として保管するようにします。
債権者によっては書類の送付を行わない場合もあるため、ファックスで送信した記録を保管しておくなどして、債権者に時効援用通知書を送付したことを書面で残すようにします。
内容証明郵便で時効援用通知書を送る場合は、郵便局でその内容の書面を送ったことが分かる謄本が保管されるため、受領書等は不要です。
2.時効の援用後はどうなるのか
(1)債権者からの督促
時効の援用後は債権が消滅するため債権者からの督促は止まります。
もし、ご自身で時効援用をされた場合に督促が続いているような場合には、時効援用が正しく行われていない可能性もありますので、弁護士への相談を検討したほうが良いかもしれません。
一度ご相談ください。
3.時効の注意点
(1)時効中断事由
時効の中断とは、下記のような事由が発生した場合に、その時点を起点として再度始めから時効の期間を計算することを言います。
下記のような事由がある場合には、最終返済日から定められた期間が経過していても時効が完成しておらず、時効援用の手続きができないことがあります。
#1 裁判上の請求
民法第147条1項では下記のような裁判上の請求等が時効の中断事由となることを定めています。
「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。」
一 裁判上の請求 二 支払督促 三 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売 四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続又は同法第204条に規定する第三者からの情報取得手続 (民法第147条1項) |
一号の「裁判上の請求」とは裁判所に訴訟提起を行って請求をする方法、二号の支払督促は簡易裁判所に支払督促を申し立てて請求をする方法です。
三号の競売とは、例えば不動産を担保にして借り入れた住宅ローンを滞納した場合に、債権者が担保権を実行して競売手続きを行うことなどがこれにあたります。
四号の財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きは債権者が裁判所に申立を行って手続きされるものです。
上記のような事由があった場合には、その時点から時効の計算が再度始まることになるため、時効期間が経過する期間が延びます。
ご自身では全く返済していなかったので時効が成立しているだろう、と考えていたけれど、実際に債権者から資料を開示してもらうと、ご自身の気づかないところで裁判を起こされていたりするケースが多々ありますのでご注意ください。
#2 差押え、仮差押えまたは仮処分
民法第148条1項及び第149条では下記のような事由も時効中断事由となることを定めています。
「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。」
一 強制執行 二 担保権の実行 三 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売 四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続又は同法第204条に規定する第三者からの情報取得手続 (民法第148条1項) |
一号の強制執行とは、債権者に裁判を起こされ、判決を取得されていた場合など、債務名義を取得され、債権者が強制執行、いわゆる差押えをする権利をもっている場合に、債権者が強制執行を裁判所に申し立てて執行された場合を指します。
「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」
一 仮差押え 二 仮処分 (民法第149条) |
一号の仮差押え、二号の仮処分とは、債権者が裁判所に手続きを申し立てたのちに、裁判所から命令書が送達され、仮差押えや仮処分に及ばれるものです。
強制執行、仮差押えや仮処分もご自身で気が付かないうちに手続きに及ばれている可能性もあるため、注意が必要です。
#3 債務の承認
民法第152条にでは承認による時効の中断を下記の通り定めています。
「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。」
(民法第152条) |
債務の承認とは、債権者に対して「●月●日までに支払います」等、債務があることを認めて支払の約束をしたり、実際に債務の一部を支払っていることなどが挙げられます。
債権者から債務があることを認める旨の書面を記入するように言われて記入をしている場合もあります。
これは債権者が時効完成が中断された証拠書面として保管をし、もし時効の遠洋がされた場合には時効未完成であると主張するために準備しているものになります。
中には電話での会話を録音しており、それを証拠に時効未完成であると主張されるケースもあります。
時効かもしれない、と思われる場合は、債権者と連絡を取る前に話してよいこといけないことを整理してから慎重に回答することが必要です。
まとめ
今回は借金の時効援用について手続きの流れや注意点についてご説明いたしました。
こちらをお読みいただいた方の中には「もしかしたら自分の借金は時効かもしれない」と思われた方もいらっしゃるかと思います。
時効援用手続きは一見簡単そうに思えて、実は確認するべき点が多々あるなど複雑な手続きです。
時効の援用を進める場合には上記記載を参考に注意をして進めて頂ければと思います。
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