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取引先への損害賠償請求1 ~エレベーターが来ていなかった末の転落事故~ (東京地裁平成5年10月25日判決)

事案の概要

Xは、取引先のYの工場内のエレべーターに乗ろうとして手動式外扉に手を掛けて横に引いたところ、扉が容易に開いたので、そこにかごが来ているものと信じて足を踏み出した。

しかし、かごが来ていなかったため、足を踏み外して約3.8メートル下のコンクリート床面に転落した(以下「本件事故」という。)。

Xは、Yに対して、工作物責任に基づき損害賠償請求訴訟を提起した。

<争点>

Yの責任及びのX責任の有無とその程度。

<判決の内容>

(Yの責任)
建築基準法及び施工令上、エレベーターには、全ての出入口の戸が閉じていなければ、かごを昇降させることができない装置及びかごがその戸の位置に停止していない場合には扉が施錠される装置の設置を義務付けられている。

しかし、本件エレベーターは、全ての出入口が完全に閉まっていないのに他階にかごが移動し、かつ、かごが来ていないのに外扉が手動で容易に開いてしまう状態にあった。

本件では、その結果として本件事故が発生したものというべきである。

したがって、本件エレベーターは法令上の安全装置を具備していない欠陥(瑕疵)があったことは明らかである。

そして、本件エレベーターはYの所有かつ占有する本件工場内に設置された建物の構成部分であり、民法717条1項にいう土地の工作物に当たる。

また、上記のような設置又は保存の瑕疵があったため本件事故が発生したものであるから、Yは、土地工作物責任に基づき、本件事故によりXが被った損害を賠償すべき責任がある。

(Xの責任)
Xは、本件事故当時、自ら操作して本件エレベーターを利用するのは初めてであった。

Xは、かご表示灯でかごの位置を確認することなく外扉の取っ手に手を掛けて横に引いたところ、容易に開いたので、そこにかごが来ているものと信じて足を踏み出した結果、右事故に遭遇した。しかし、本件エレベーターの位置及び構造等からすれば、外扉が開いた時点でXの眼前は暗闇ないしそれに近い状態であったと推認されるのであり、このような場合において、エレベーターの利用者としては、何らかの異常に気付き、かごが来ているか否かを疑ってしかるべきであり、そうだとすれば、Xは、かごの位置を確認する義務を怠ったものといわざるを得ない。

(結論)
本件事故は本件エレべーターに前記法令違反の瑕疵があったことに主な原因があり、右瑕疵がなければ本件事故は発生しなかったものであることなど諸般の事情を総合考慮すると、Xの過失割合を3割と評価するのが相当である。

まとめ

本訴訟では、Yが本件エレベーターを法令違反の状態にしていたことが本件事故の主たる原因であるとされました。

その上で、Xの過失相殺も斟酌されました。

この点、過失相殺の理由とされたのは、かごが来ているかどうかくらいはXも気付いたであろうという点です。

つまり、軽率な不注意がXにもあったとされました。

これについて、3割の過失相殺は若干厳しくも感じます。

もっとも、Xはかご表示灯でかごの位置を確認することも怠っていました。

そのため、本来であれば、扉を開ける前にかごの位置を確認し、本件事故を防ぐこともできたのです。

しかしながら、Xは表示灯を確認せず、扉が開いてしまったことで眼前にかごがあると思い込み、転落してしまいました。

判決では、Xの過失割合を消極的に解する事情として、Xが本件エレベーターの利用が初めてだったことに触れています。

しかし、エレベーターの利用時に今かごが何階に位置しているのかは通常確認するものでしょう。

そのため、私見としては、初めての利用であったかどうかは消極的事情にはならないと考えます。

いずれにせよ表示灯を確認せずにまず手動式扉に手をかけてしまった点は、やはりXの落ち度を大きくする事情と言えるでしょう。

以上のとおり、被災者にも軽率な不注意があり、それらが重なると、過失相殺もそれなりに認められてしまいます。

もっとも、その判断は個別具体的事情により、一律に決めることは困難です。ぜひ一度、弁護士にご相談下さい。

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