裁判例
Precedent
事案の概要
Xは、職場の休憩時間中、ハンドボールを使った簡易ゲームを同僚らと行っていた。
その中で、Xは、ハンドボールの上に乗り上げてしまい、転倒し、骨折などの傷害を負った。
Xは、労働基準監督署に、休業補償給付の支給を求めて申請したが、同署長は、本件事故は業務災害に該当しないとして不支給決定処分を下した。
Xは、本件処分について不服申立てをしたが、いずれも棄却された。
そこで、労働基準監督署長に対して行政訴訟を提起した。
<争点>
本件事故は業務災害に該当するか。
特に、本件事故が私的行為と評価すべき行為によって生じたものといえるか。
<判決の内容>
判決は、業務災害というための要件として、業務遂行性と業務起因性を挙げた。
さらに、業務遂行性とは事業主の支配下にあり、かつ、施設管理下にあって業務に従事しているという典型的な場合のみならず、事業主の支配下にあり、かつ、施設管理下にあって、ただ業務には従事していない場合、すなわち、事業施設内で自由行動を許されている場合の事故も含むとした上で、本件では、被告の主張を前提としても業務遂行性は認められるとした。
次に、業務起因性とは、業務遂行性が認められる以上、特段の事情が無い限り業務起因性が認められるとした上で、これが否定される特段の事情、すなわち、本件事故が私的行為と評価すべき行為によって生じたかが主たる争点であるとした。
その上で、本件で行われていた簡易ゲームは、休憩時間中に勝手に行う私的ゲームなどとは異なり、より拘束性の強いものであって、会社の業務と密接に関連性を有する行為とみることができる。
したがって、業務起因性も認められることから、本件事故を業務災害と認めた。
まとめ
休憩時間中の事故は、業務災害に当たらないのが原則です。
なぜなら、休憩時間は業務から開放され自由行動が許されており、その時間内の行動は私的な行為であるといえます。
そのため、休憩時間中の負傷は私的な行為によるものとなり、業務起因性が否定されるためです。
しかし、実際は、休憩時間中でも、労働者は使用者の施設管理下にあることや、施設の欠陥などが原因となって負傷してしまうこともあります。
そのため、私的行為によるものであっても就業時間中であれば業務災害として認められるケースについては、休憩時間中の事故についても業務災害として認められる例があります。
もっとも、本件では、そもそも簡易ゲームを私的行為とはいえないとしました。
その判断の前提として、以下の事実が認められています。
・簡易ゲームは業間体操の後に引き続き行われていた。
・業間体操は、始業前や休憩時間後に毎回全員参加で必ず行われていた。
・簡易ゲームは、業間体操と同じく生産体育の一環として、健康の保持増進を目的として、会社所定の訓練を受けた体育リーダーの指揮の下で行われていた。
・簡易ゲームに参加しないことで人事・給与面で不利益は無く、出欠をとることもなかったが、不参加者にはできる限り参加するように指導していた。
・簡易体操は、業間体操に引き続き就業時間に食い込み実施された。
これらの事実に基づき、判決は、事実上は、Xは、病気などのやむをえない事由でもない限り簡易ゲームに参加せざるを得ない状態にあり、参加しなかったとしても業務の性質上、簡易ゲームが終わるのを待って参加者らと就業を開始せざるを得ない点から、全く私的行動の自由が保障された休憩時間とは異なるとしました。
そこで、業務起因性を否定するような特段の事情は無いとして、上記のような判決となったのです。
このように、本判決では、業務との関連性の強度から、私的行為性を否定しました。
休憩時間中であっても、単純に業務災害性が否定されないだけでなく、どのような場合に業務関連性が強く認められるのか、考慮される事情はどういったことがあるかという点で参考になる裁判例です。