裁判例
Precedent
事案の概要
Xは、クレープ販売店のフランチャイズチェーンを営む本部である。
Yは過去、Xの従業員として4年程在籍し、主として新規加盟店を開発する業務を担当していた。
YがXの従業員として勤務していた当時、YはXから、新規加盟店を開発する業務を行うため、クレープの製造・調理方法、従業員の管理、金銭管理その他店舗運営全般に関する内容が記載されたマニュアルを貸与されていた。
Yは、Xを退職した後、クレープ販売店のフランチャイズチェーンを営む会社を自ら立ち上げた。
Xは、Yが自らの会社で使用するマニュアルに記載されたクレープミックス液の材料及び配合比率が、Xの営業秘密に当たるとして、そのマニュアルの使用の差止め、マニュアル記載部分の削除、損害賠償を求めた。
<判決の概要>
Xは、クレープミックス液の配合割合について、粉10gに対する水分(牛乳及び水)の量が16ないし17ccである点、牛乳と水を1:1の割合で配合した点、調味料としてリキュールを配合した点が他に見られない特徴であると主張する。
しかし、クレープミックス液の主たる材料として、ミックス粉、卵、牛乳ないし水(あるいはその両方)を用いることは公知であると認められる上に、上記特徴が営業秘密であるとは認められない。すなわち、①粉10gに対する水分の量が16ないし17ccccである点、②牛乳と水の配合割合が1:1である点、及び、③調味料としてリキュールを配合した点については、これらがクレープの品質を優位に向上させるものであるとは認められない。
上記①の配合割合については、一般にホットケーキより薄めで、触感がクレープに比較的近いと思われるパンケーキにおいては珍しくないものであることから、テイクアウト中心のタイプのクレープにおいても、当然に考えられる配合の割合である。
また、②の点についても、牛乳と水の配合割合を1:1にしたことが、クレープの品質にとって、どのようにどの程度有用かが不明である。
むしろ、焼きあがったクレープの品質は、主としてミックス粉自体の成分・配合によって決定されるものであって、粉に対する水分の量や、牛乳と水の配合割合も、粉の成分との関係を離れて一般的に成立するような普遍的なレシピが存在し得るものではないと認められる。
③についても、ケーキ等の焼き菓子類の原料に荒涼としてリキュール類を加えることがあることは、料理法として広く知られたものである。
以上の検討によれば、Xがマニュアルとして定めている材料及びその配合割合が有用性の要件を充たすものとは認められない。
まとめ
営業上の秘密を保護する法律として、不正競争防止法がありますが、同法で保護される営業秘密に当たるためには、その情報が、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②事業活動にとって有用であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)の3つの条件を満たすことが必要です。
本裁判例は、クレープミックス液の材料やその配合割合といった情報が、一般的で普遍性の域を出ず、独創的なものでないことを根拠に、②有用性の条件を満たさないと判断したものです。