ホテル・旅館におけるトラブル対応~食事編~

宿泊客とのトラブル

毎日多くの利用客が出入りするホテルや旅館等(以下、「ホテル等」といいます。)では、利用客とのトラブルを抱えてしまうことも多いと思います。

その際に、ホテル等としてどのように対処すべきかは、その後に利用客との間で紛争となり、場合によっては裁判にまで発展してしまうようなリスクを最小限にするため、また、仮に裁判に発展してしまった場合であっても、過大な責任を追及されないようにするために重要となります。

そこで今回は、ホテル等で提供される食事に着目したさまざまなトラブルのケースを想定しながら、ホテル等としてどのように対応するのが適切であるかを見ていきます。

ホテル等で提供された食事に関するトラブル

ホテル等は、利用客に対して食事の提供を行う場合、宿泊契約に基づくサービスの提供に当たり、安全な料理を提供する義務を負っています(このような義務を「安全配慮義務」といいます)。

異物が混入している料理を提供することは、安全配慮義務に違反することになります。そして、これにより利用客の体調に異変をもたらしたり、歯が欠けたりといった損害が生じた場合には、ホテル等はその治療費や、場合によっては慰謝料などの損害を賠償しなければなりません。

このような安全配慮義務の違反で責任を問われるのは、原則として、ホテル等に故意又は過失がある場合に限られます。

しかし、一方で、ホテル等に過失があるか否かを問わず、製造物責任法に基づく責任を問われる可能性があります。

製造物責任法は、「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産にかかる被害が生じた場合」に、製造者が責任を負うことを定めています。

ホテル等は、原材料である食材を加工して料理を提供していますので、製造者に当たると判断されます。

そうすると、ホテル等で提供された食事が、ホテル等において作られた料理である場合であって、その料理の欠陥に起因して利用客に損害が生じた場合には、ホテル等の過失の有無にかかわらず、ホテル等は損害を賠償すべき責任を負うのです。

以上を前提に、以下に挙げるような具体例を検討していきます。

#1:利用客から料理に異物が混入していたといわれた場合

トラブルが発生した場合、まずは、直ちに事実確認を行い、迅速な対応を行うことが必要です。

まずは指摘が「言いがかりではないか」と疑うのではなく、指摘が事実であることを前提に誠意をもって対応すべきです。

もし利用客が異物によって怪我や不調を訴えている場合には、直ちに医療機関を手配したり、治療費の支払いを申出るなど、積極的な対応が求められます。

そして、他の利用客に提供した料理にも同様の異物が混入していないかにも注意する必要があります。

さらには、異物混入の原因を調査することも欠かせません。異物が特定できれば混入ルートも絞られます。

食材がホテルへ搬入された後に混入した可能性もありますが、搬入時点で既に混入していた可能性もあります。

様々な可能性を検討する必要があるでしょう。

調査の結果分かったことを速やかに利用客に報告することも、誠意を示す上で重要です。

一方で、事実の調査の結果、異物の混入が虚偽であった場合には、ホテル等は、その利用客に対して損害の賠償を請求することができます。

また、ホテル等に対して、虚偽の異物混入を訴える行為は、偽計業務妨害罪に該当する可能性が高いため、悪質な場合には警察に相談することも検討すべきです。

#2:利用客がホテル等の利用後に腹痛等を訴えた場合

例えば、1ヶ月前にホテル等を利用したお客から、「提供された料理が原因で、帰宅した後に激しい腹痛に悩まされた。どう責任を取るつもりか。」と連絡を受けた場合、どう対処すべきでしょうか。

このような電話連絡を受けた場合、言いがかりだと感じる方も多いのではないかと思いますが、絶対にないとも言い切れません。

決して、その利用客の言い分を聞かずに門前払いしたり、話を聞いた上で全面的に否定したりすべきではありません。

もし真実だった場合、誠実な対応をしなかったホテル等は、その後の立場を悪くしてしまうかもしれません。

そこで、まずはその利用客が宿泊した際に提供した食事がどのようなものであったか、中毒症状などを引き起こす可能性の高い食事でなかったのかなど、調査・確認をすべきです。

その上で、利用客から、提供された食事の内容や、その後の体調変化などを具体的に聴取し、また、その利用客と同時期に同種の食事をとった他の利用客から同様の連絡が入っていないかどうかも確認すべきです。

そして、これらの調査の結果を踏まえて、その利用客と話合いの場を設けるとよいでしょう。

その際は、誠実な対応を心がけ、言い分にしっかりと耳を傾けることが大切です。

他方で、調査結果を正確に伝え、ホテル等として、利用客の腹痛の原因がホテル等で提供した食事であるとは考えていないなど、自身の見解を伝え、理解を求める必要があります。

門前払いは避けるべきと言いましたが、反対に、解決を急ぐあまりに、必要な調査をすることなく金銭の支払を申し出ることも、ホテル等の信頼が揺らぐ結果となることもありますので、得策ではありません。

#3:利用客が提供された食事を残して客室に持ち帰り、翌日になってそれを食べたことで腹痛等を訴えた場合

このような場合、まずは、市販の薬などを提供したり、医療機関を手配するなど、利用客の身体を気遣うことが第一です。

次に、利用客が腹痛を引き起こしたことには、利用客自身の落ち度があることは明らかですが、ホテル等において何らの責任も負わないかというと、必ずしもそうとも言い切れません。

上述した、「安全配慮義務」の違反があるか否かによって結論は変わってきます。

お刺身などの生ものであれば、いたみやすいことは誰にでも分かりますから、利用客が自身の客室にそれを持ち帰ろうとしていることをホテルの従業員等が見かけたら、これを制止すべきといえるでしょう。

それにもかかわらず、これを黙って見過ごしていれば、ホテル等に過失があるといわれてもおかしくありません。

その他、ホテル等が責任を負うことになるか否かは、利用客が口にした食材、季節、部屋の温度、利用客自身の注意の度合い、従業員等の注意の度合いなど、さまざまな要素を総合的に考慮した上で判断されることになります。

ホテル等として、無用なトラブルを避けるためには、食事の際に利用客が食べ残したものは回収して処分することを徹底すべきでしょう。

利用客が持ち帰りたいと申し出た際には、時間が経過するといたんでしまうので、などと説明して利用客に理解を求めるよう努めるべきでしょう。

まとめ

以上に挙げた例のほかにも、食事に関するトラブルは多々存在すると思います。

ホテル等として大切なのは、トラブルが発生した際に、利用客に対して迅速かつ誠実に対応することで、利用客から良い対応をしてもらえたと感じてもらうことです。

さらに、次に同様のトラブルが発生しないよう、しっかりと事実の調査を行い、原因を解明し、対策を講じることです。

これらをしっかりと行っていても、利用客とのトラブルを全く無くすことは難しいと思います。

利用客とのトラブルの対応には法的な知識や対応が求められることも少なくないので、利用客とのトラブルでお困りのホテル等の経営者の方は、是非、法律の専門家である弁護士にご相談することをお勧めします。