宿泊料の不払いが起きた場合の消滅時効とは?事前にできる対処法
ホテルや旅館など(以下、「ホテル等」といいます。)の経営者にとって、宿泊料を支払わない宿泊客(以下、「不払客」といいます。)は、百害あって一利なしです。
経営者としては、このような不払客に対して、どのように対策を採るべきでしょうか。
以下で検討していきます。
1.不払客の被害にあってしまったら
(1)刑事責任の追及
ホテル等から宿泊などのサービスを受けたにもかかわらず宿泊料を支払うことなくホテルや旅館を去ることは、窃盗罪あるいは詐欺罪にあたる可能性が高いです。
警察に被害届を提出して、告訴し、刑事責任を追及することができます。
(2)民事上の責任の追及
刑事責任を追及しても、支払ってもらえなかった宿泊料が回収できる訳ではありません。
これを請求するには、別途、民事上の責任を追及する必要があります。
もっとも、この民事上の責任追及には、いくつか気をつけなければならない点があります。
2.消滅時効
現行民法上では、ホテルや旅館の宿泊料の請求権は、1年で消滅時効にかかるとされています(民法174条4号)。
通常の債権であれば10年、商事債権であっても5年とされているため、1年というのは非常に短く規定されています。
そのため、債権の回収を図るには、比較的速やかに対応しなければ、あとになって回収しようとしても、時効によって消滅してしまうリスクがあるのです。
時効の期間の進行を止めるための最も簡易迅速な方法は、「催告」と呼ばれるものです。
不払客に対して宿泊料を請求すれば、「催告」したことになります。
催告をすると、消滅時効の進行が止まりますが、催告から6ヶ月以内に裁判上の請求(訴訟提起や支払督促の申立)を行わなければ、時効の中断の効果がなかったことになってしまいますので、注意が必要です。
実際には、不払客から時効が主張され、ホテル等が催告したことを反論として主張する際には、催告したことを証明できなければなりませんから、宿泊料の請求の旨を配達証明つきの内容証明郵便で送付する方法がベターです。
なお、平成32年4月1日から施行される予定の改正民法においては、施行後に発生する宿泊料の請求権の消滅時効は5年となるため、現在よりも時間的な余裕は生じることになりそうです。
3.不払客の資力(回収見込み)と回収にかかる費用との関係
さて、消滅時効にも気をつけて、いざ、不払客から宿泊料を請求しようとしても、そもそも不払客に宿泊料を支払えるだけの資力がなければ、民事訴訟や支払督促を申し立てても、無駄になってしまいます。
かえって、手続に費用がかかってしまい、傷口を広げるだけです。
このように、不払客からの宿泊料の回収には、常に費用倒れのリスクがついて回ることになるため、次に述べるように、不払客の出現をなくすことが、ホテル側にとって最も注力すべき対策となります。
4.被害にあわないための事前対策
まず、考えられる対策としては、宿泊料を事前に受け取っておくことです。
また、近年多く見られるように、旅行業者と、宿泊客のあっせんに関する契約を締結しておくことも考えられます。
この契約の典型的な内容に従えば、旅行業者は、旅行客から宿泊代金を受け取ると、宿泊券を発行します。
そして、ホテル等が、宿泊客からこの宿泊券を受け取れば、ホテル等は、旅行業者に宿泊料を請求できるようになります。
したがって、ホテル等は、宿泊客の無資力のリスクを負うことなく、宿泊客にサービスを提供し、宿泊料も確保できます。
しかし、いかに前金を取っていても、宿泊中にそれ以上の料金が発生する場合(延滞料や、追加飲食代等)には、やはり不払客の発生のリスクが生じてしまうことになります。
この場合には、その都度に料金を請求することも考えられますが、客を信用していないというホテル等側の態度の表れにもなり、ホテル等に対する宿泊客の評価にも影響してきます。
その他に考えられる対策としては、いわゆるブラックリストとしてのUGリストを周辺ホテル等同士で共有し、定期的に眼を通しておくとか、不払客に対しては一律、刑事告訴や民事訴訟を行うという強い姿勢を貫くといった地道な努力を積み重ねることで、不払客が寄り付かないようなホテル経営を心がける必要があります。
まとめ
このように、不払客は、ホテル等の経営にとって大敵となりますが、その対策にはなかなか苦労することが多いのが現状です。
過去には100万円以上の宿泊費や飲食代を支払わずに行方をくらませた宿泊客などもいたようです。
不払客に宿泊料を踏み倒されてしまったが、相手に支払い能力があるか分からず、民事訴訟の費用リスクが心配で民事責任の追及に尻込みしてしまっている方や、宿泊料の請求権我が時効で消滅してしまいそうだが、その時効の進行を止める方法が知りたいという方など、不払客への対策や、法的責任の追及にお悩みのホテル等の経営者の方は、なるべくお早めに、法律の専門家に相談することをお勧めします。
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