自己破産手続で支払う予納金とは?いくら必要?

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「自己破産手続をする際に必要な予納金とは?」
「金銭的な余裕がないのに予納金を払う必要があるのか?」

自己破産手続の予納金について気になっている方も多いのではないでしょうか。

自己破産手続における予納金とは、破産手続をする際に裁判所へ支払う費用のことです。

弁護士に支払う着手金、報酬とは区別する必要があります。

予納金の内訳には手数料、官報公告費、引継予納金などが含まれます。

この記事では自己破産で必要となる予納金とは何か、予納金はいつまでにいくら必要なのかなどについてご説明します。

1.自己破産手続で必要な予納金とは

自己破産手続で必要な予納金とは

自己破産手続をする際、申立人は予納金と呼ばれる費用を裁判所に支払わなければなりません。

申立人が支払った予納金は、自己破産手続を進めるうえで必要となるさまざまな費用に充てられます。

そのため、予納金は自己破産手続を経て免責許可決定を受けた後でも、返還されることはありません。

ここからは予納金の内訳や、いつ支払う必要があるのかについてご説明します。

(1)自己破産の予納金の内訳

自己破産の予納金には、以下のものが含まれます。

予納金の内訳

  • 破産申立手数料
  • 官報公告費
  • 郵券代
  • 引継予納金


なお、破産申立手数料や予納郵券は、裁判所および債権者とのやり取りで必ず必要なため、予納金と区別されるものですが、ここでは予納金とあわせて解説することとします。

それぞれどのような費用なのかを詳しく見ていきましょう。

#1:破産申立手数料

裁判所に破産手続を申し立てる際には、申立手数料を収入印紙で納付しなければなりません。

自己破産の場合、申立手数料は1500円となります。

収入印紙を貼付していない申立書は、裁判所の窓口で受け付けてもらえないので注意しましょう。

#2:官報公告費

自己破産手続をすると、破産申立人の氏名や住所などが官報に掲載されます。

官報とは国が発行する機関紙で、法令の公布や公務員の人事異動といった国の行為についての広報や、各省庁、裁判所、会社などの公告に関する事項が掲載されます。

自己破産の場合にも公告事項が定められているため、破産者の情報が官報に掲載されることになります。

官報に公告するための費用も予納金として支払わなくてはなりません。自己破産における官報公告費は、事件の内容によって変わりますがだいたい1万~1万5000円程度となります。

#3:郵券代

自己破産手続では、申立人が破産した旨などを債権者に郵送で通知します。この通知を送付する際に使用する郵便切手(郵券)の費用も、予納金として申立人が事前に納付しなければなりません。

管轄の裁判所によって異なりますが、郵券代金は5000円前後となるケースが多いです。もし郵便切手が余った場合は、弁護士を介して戻ってきます。

#4:引継予納金

自己破産手続には、同時廃止事件、管財事件という二つの進め方があります。このうち管財事件となった場合、破産管財人に引継予納金を支払わなければなりません。

管財事件では、破産管財人が破産者の財産の調査や換価をし、債権者への配当が行われます。その処理に必要な費用および破産管財人の報酬にあてられることになるのが引継予納金です。

引継予納金は自己破産において裁判所に納める費用のなかでもっとも高額で、だいたいの場合は10万~20万円、事件の内容から破産管財人の報酬が多く必要な場合は50万円以上かかるケースもあります。

なお、財産の換価や配当がない同時廃止事件では、破産管財人も選任されないため引継予納金を支払う必要はありません。

(2)自己破産の予納金を支払うタイミング

自己破産の予納金をいつ支払うのかについてですが、実は予納金の支払期日は設けられていません。

裁判所ごとに運用が異なっており、申立て後、手続を進めながら分割で積立てをしたり、一括で支払えるようになるまで開始決定をせずに待ったりと様々です。

ただし、あまり長い期間手続を進めないわけにはいきませんので、予納金の見込み額を確認し、短期間で支払を終えられるよう準備をしておく必要があります。

2.自己破産における予納金の費用相場

自己破産における予納金の費用相場

自己破産は、同時廃止事件、管財事件の二つに分かれており、どちらの進め方をしていくかによって予納金がいくらかかるのか異なります。

また、管財事件については、さらに手続が分かれ、少額管財事件と通常管財事件の二つの進め方があります。

予納金の費用をもっとも抑えられるのは、引継予納金が不要な同時廃止事件です。

しかし、弁護士を代理人としない本人申立ての場合、同時廃止事件となることはありません。

また、代理人申立てで同時廃止事件を希望してもこれが必ず通るとは限りません。

事件ごとの事情に応じた裁判所の決定に従うしかないのです。

自己破産の予納金は裁判所によっても多少異なるので、東京地方裁判所を例として、自己破産の進め方ごとの費用相場を紹介します。

(1)同時廃止事件の場合

同時廃止事件とは、破産手続の開始と同時に破産事件が廃止(終了)するものです。

東京地方裁判所における同時廃止事件の費用相場は1万7千円程で、その内訳は以下のとおりです。

  • 破産申立手数料・・・ 1500円
  • 官報公告費・・・ 1万1859円
  • 郵券代・・・ 4200円

このように同時廃止では引継予納金が不要となるため、金額は低く抑えられます。

なお、同時廃止事件となるのは、以下の二つに該当する場合です。

  • 破産手続費用を支払えないことが明らかである
  • 免責不許可事由がないことが明らかである

法律上、同時廃止が認められるのは「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」と定められています(破産法216条1項)。

なお、破産財団とは破産管財人に管理および処分される、破産者の財産の総体のことです。

申立人が所有している財産の金額によって、同時廃止となるかどうかが変わります。

同時廃止となるには、自由財産を除いた、現金については33万円未満、その他の財産については20万円未満のものしかないという場合です。

(2)少額管財事件の場合

少額管財事件とは、管財事件において破産管財人が行う手続を簡略化し、通常の管財事件より引継予納金の金額を大幅に少額化した裁判所独自の運用制度です。

東京地方裁判所における少額管財事件の費用相場は約22万円であり、その内訳はこちらです。

  • 破産申立手数料・・・ 1500円
  • 官報公告費・・・ 1万8543円
  • 郵券代・・・4200円
  • 引継予納金・・・20万円

少額管財事件として手続を進めるには、申立人の代理人として弁護士を選任することが必須条件となります。自分で破産の申立てをしたり、司法書士に手続を依頼したりすると、少額管財にはなりません。

少額管財または少額管財に類する運用は多くの裁判所で行われていますが、少額管財はあくまで裁判所独自の運用制度です。そのため、裁判所によっては少額管財を運用していない場合もあることに注意してください。

(3)通常管財事件の場合

通常管財(特定管財)事件とは、申立人が破産手続費用を支払えると判断できるものの、少額管財で手続を進めることが困難な場合に適用される制度です。

東京地方裁判所における通常管財事件の費用相場は、負債額が5000万円未満の場合は約50万円となります。内訳は以下のとおりです。

  • 破産申立手数料・・・1500円
  • 郵券代・・・ 4200円
  • 官報公告費を含む引継予納金・・・ 50万円

引継予納金の金額は、負債額によって変動します。

通常管財事件となると少なくとも50万円以上の予納金を支払う必要がありますが、個人の自己破産の場合はほとんどが少額管財事件として進められます。

3.自己破産の予納金が支払えない場合の対処法

自己破産の予納金が支払えない場合の対処法

すでにご説明したとおり、予納金の支払スケジュールについては裁判所によってまちまちなところがあります。

とはいえ、予納金の支払のめどが立っていなければ、申立てをしても破産の手続を進めることはできません。

裁判所に予納金の支払ができず、いつまでも破産手続開始決定がされないままとなってしまえば、借金の問題も解決することができません。

ここからは、予納金を支払えるようにするために考えられる手段についてご説明します。

(1)弁護士に積立てをしてもらう

自己破産手続を弁護士に依頼するなら、予納金の積立てをしてもらえる場合があります。

弁護士と委任契約を締結すると、債権者宛てにすぐ受任通知を発送してもらえます。受任通知とは、債務者が破産手続を開始する旨を知らせるもので、債権者からの取立てを停止する効力もあります(ただし、訴訟提起等の裁判手続は止められません。)。

弁護士に自己破産手続を依頼すると、債権者からの直接の督促が一時的に止まり、その間に予納金を積み立てられるのです。

この場合、弁護士費用も同時に積立てをすることもあるでしょう。

弁護士に積立てをする際の支払は、弁護士事務所が指定する口座に毎月一定額を振り込む形で行います。

そして、弁護士費用と予納金が貯まった時点で自己破産を申し立てることになります。

なお、予納金の積立て期間、毎月の積立て額については弁護士と相談のうえ決めることとなります。

あまり長い積立て期間となってしまうと、債権者が訴訟を提起してくることもありますので、可能な限りの金額を支払って積み立てるようにする必要があります。

(2)裁判所に分割払いの相談をする

裁判所によっては引継予納金を一括ではなく分割払いにしてくれる場合があります。

実際に、東京地方裁判所では少額管財の引継予納金に関して、分割払いを認めています。

分割払いが認められたとしても、破産手続は予納金を全額支払い終えるまでは終了させることができません(東京地方裁判所では債権者集会や免責審尋の期日を積立ての終了の時期にあわせて設定することとしています。)。

しかし、例えば東京地方裁判所の運用であれば、破産手続開始決定後の分割払いとなりますので、債権者の訴訟提起等に悩まされず、分割払いを行うことができるのは大きなメリットといえるでしょう。

分割払いを認めてくれる裁判所の数は少ないですが、一括での支払が難しい場合は相談してみるとよいでしょう。

まとめ

自己破産手続をする際には、裁判所に予納金を支払わなくてはなりません。予納金の費用相場は自己破産手続の進め方によって異なり、同時廃止事件は2万円、少額管財事件は20万円、通常管財事件は50万円以上となります。

予納金の支払期限は裁判所によってまちまちで、分割払いを認めるところもありますが、予納金を全額支払うまで破産手続が開始しなかったり、終了しなかったりしますので早めに支払いましょう。

予納金の一括払いが困難な場合でも、弁護士に依頼し受任通知を送ってもらえば債権者からの取立ては止まります。
毎月の返済に充てていた分を予納金に充当できるので、ある程度の余裕をもって積立てを行うことができるでしょう。

自己破産手続を検討しているものの、予納金の準備について不安がある場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

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執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。