法人破産ができないケースとは?弁護士が法人破産ができないケースを解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「法人破産を検討しているが、できるかどうかわからない」
「法人破産ができないケースにはどのようなものがあるのか」

会社、法人の代表者の中には、法人破産を行うことを検討されていて、このような疑問や不安をお持ちの方もいるかと思います。

法人破産を行うためには、一定の要件を満たす必要があり、裁判所に申立てを行えば必ず手続きを進めることができるとは限りません。

そのため、どのようなケースでは法人破産を行うことができないのかについて、あらかじめ把握しておくことが大切です。

この記事では、法人破産を行うことができないケースや法人破産を行うメリット・デメリットなどについて解説します。

1.法人破産ができないケース

法人破産を行うためには、一定の要件を満たす必要があります。

そのため、法人破産を行うための要件を満たしていない場合には、法人破産を行うことができません。

具体的には、以下のようなケースが挙げられます。

法人破産ができないケース

  1. 法人破産を申し立てる要件を満たしていない
  2. 予納金を納付できない
  3. 不当な目的で申し立てられている
  4. 法人破産以外の手続きがすでに開始されている

それぞれについて解説します。

(1)法人破産を申し立てる要件を満たしていない

法人破産を進めるためには、裁判所への申立てが必要となります。

裁判所へ法人破産を申し立てるためには、支払不能であること、債務超過であることのいずれかの要件を満たす必要があります。

支払不能とは、「債務者である法人が支払能力を欠いており、弁済期が到来した債務について一般的かつ継続的に弁済ができない状態(破産法第2条11項)」です。

すべての債務について、継続的に弁済ができない状態を指しており、一部の債務についてのみ支払えない場合や、一時的に支払えない場合は支払不能ではありません。

また、債務超過とは、「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態(破産法16条1項)」のことで、法人が所有する資産よりも債務総額が上回っている状態です。

破産手続を申し立てるためには、破産手続開始決定の時点において、債務超過であることが決算書などの資料のほか、財務や負債の状況から客観的に判断できることが条件となります。

そのため、申立ての時点でこれらの要件を満たさない場合には、法人破産の申立てができないことに注意が必要です。

なお、法人破産を申し立てるための要件については、以下の記事もご参照ください。

2024.09.26

法人破産を申し立てるための要件とは?破産手続の流れやメリット・デメリットを解説

(2)予納金を納付できない

予納金とは、申立ての際に裁判所に支払う費用のことです。

裁判所によって金額は多少異なりますが、東京地方裁判所の場合、少額管財事件ではなく、通常の管財事件として処理される場合には、負債総額に応じて以下のように予納金の金額が設けられています。

負債総額 予納金
5000万円未満 70万円
5000万円~1億円未満 100万円
1億円~5億円未満 200万円
5億円~10億円未満 300万円
10億円~50億円未満 400万円
50億円~100億円未満 500万円
100億円以上 700万円

そのため、予納金を捻出することができないほど資金繰りが悪化している場合にも、法人破産を行うことができなくなってしまいます。

なお、少額管財事件として処理される場合、予納金は20万円であることが一般的です。

もっとも、少額管財事件は、弁護士に依頼して破産の申立手続を進めることが前提となります。

また、弁護士に手続を依頼する場合には、予納金のほかにも弁護士費用が必要となります。

そのため、資金繰りが悪化している場合には、速やかに弁護士に相談して法人破産の手続きについて見通しを立てておくことが重要です。

(3)不当な目的で申し立てられている

不当な目的で破産手続を申し立てていると認められた場合も法人破産が進められません。

不当な目的とは、例えば以下のようなケースを指します。

不当な目的の具体例

  • 法人の資産を別会社に移した上で偽装破産を申し立てるケース
  • 返済の意思がないにも関わらず多額の借金を繰り返し、返済義務を免れるために法人破産を申し立てるケース

上記のような不当な目的で法人破産を申し立てた場合、破産詐欺罪に問われることがあり、1000万円以下の罰金や10年以下の懲役が科される可能性があります。

(4)法人破産以外の手続きがすでに開始されている

法人の負債処理の手続きには、法人破産のほか、民事再生・会社更生・特別清算などがあります。

いずれも裁判所を通じて行う法的手続です。

民事再生や会社更生は、法人破産とは異なり、会社を存続させた上で事業を立て直すことを目的としている点で違いがあります。

上記の手続きは債権者も申し立てることができます。

また、法人破産は法人の負債を処理する手続きの中でも最終手段と位置づけられているため、上記のような手続きが優先され、すでにこれらの手続きが申し立てられている場合には法人破産の手続きが中止となってしまいます。

なお、法人破産を申し立てた後に会社更生や民事再生が申し立てられた場合でも、法人破産の手続きは中止となってしまうため、注意が必要です。

2.法人破産のメリット・デメリット

法人破産を行うことには、主に負債で立ちいかなくなった法人を清算するという大きなメリットがある一方で、デメリットもあります。

メリット・デメリットを理解したうえで手続を行うようにしましょう。

(1)メリット

法人破産を行うことによるメリットには、以下のようなものがあります。

法人破産を行うメリット

  1. 債務を返済する必要がなくなる
  2. 資金繰りに悩むことがなくなる

順にご説明します。

#1:債務を返済する必要がなくなる

法人破産は、最終的に法人格を消滅させ、法人の抱える負債も消滅させる手続きです。

そのため、法人破産を行った後は法人の債務について返済する必要がなくなることが大きなメリットであると言えます。

なお、消滅する債務は取引先とのものだけでなく、法人税などの租税、社会保険料などの支払義務も含まれます。

このように、法人破産の手続をすることで、租税なども含めたすべての債務について、返済する義務を免れることができます。

#2:資金繰りに悩むことがなくなる

法人破産を行うことで、法人格が消滅するため、法人に属するすべての債務が消滅します。

これによって、取引先などの債権者から督促や取立てを受けることもなくなります。

それまで赤字が続き資金繰りが苦しい中で経営していたとしても、手続後は資金繰りに悩む必要がなくなるのです。

(2)デメリット

他方で、法人破産には以下のようなデメリットもあります。

法人破産を行うデメリット

  1. その法人で事業を継続できない
  2. 代表者自身も破産が必要になるケースがある
  3. 従業員を解雇しなければならない

デメリットまでを把握した上で、適切なタイミングで法人破産を行うべきか否かについて判断することが重要です。

#1:その法人で事業を継続できない

法人破産は、法人格を消滅させるため、手続後は事業を継続することができません。

破産手続を行えば、法人が所有する財産をすべて換価処分を行い金銭に換え、債権者に分配します。

配当を経て法人を消滅させるため、破産した同じ法人として事業を継続することができないのです。

#2:代表者自身も破産が必要になるケースがある

一定のケースにおいて、法人破産と同時に代表者自身も破産手続が必要なことがあります。

代表者が法人の債務の連帯保証人になっている場合、代表者は法人の債務について返済義務を負います。

法人破産をすることで、法人は消滅するため返済の義務はなくなりますが、連帯保証人は債務を免除されません。

しかし、法人の債務は金額が大きく、個人が返済できないこともあり、その場合は代表者自身も破産手続を行う必要が生じるのです。

代表者個人が住宅や車など高価な資産を持っていた場合、それらを手放す必要がありますが、法人破産とは異なり生活に必要な最低限の財産を残したうえで破産手続を行うことができますので、破産手続後も通常どおりの生活を送ることができます。

法人破産における代表者の破産手続について、以下の記事も参考にしていただければ幸いです。

2024.11.25

法人破産における代表者の責任とは?代表者の役割や弁護士に相談するメリットを解説

#3:従業員を解雇しなければならない

法人破産をすることで法人格が消滅しますので、従業員を雇い続けることができません。

そのため、従業員を解雇せざるを得ず、従業員の生活にも大きな影響を及ぼすことに注意が必要です。

また、解雇する際は、解雇する日の30日以上前に解雇予告を行うか、予告をしない場合は解雇までの残日数に応じて解雇予告手当を支払うように義務付けられています。

なお、解雇の時点で従業員への未払いの賃金がある場合には、破産手続上での優先弁済の順位について注意が必要です。

法人破産における配当の順位や債権の内容については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。

2024.03.19

法人破産における債権者への配当の順番は?配当があるケースを弁護士が徹底解説

3.法人破産について弁護士に相談するメリット

法人破産を行うためには、法律が定める要件を満たす必要があります。

また、手続きを行うにあたっては、書類作成や資料収集、費用の捻出などの事前準備も必要不可欠です。

そのため、法人破産を行うことを検討されている方は、なるべく早期に弁護士に相談しておくことがおすすめです。

弁護士に相談することで、見通しの説明や、債務額やその他会社の状況に応じて最適なアドバイスを受けることができます。

主なメリットは以下のとおりです。

法人破産について弁護士に相談するメリット

  1. 法人破産を行う要件や手続きの流れについてアドバイスを受けられる
  2. 依頼をして書類作成や資料収集を任せることができる

順にご説明します。

(1)法人破産を行う要件や手続の流れについてアドバイスを受けられる

法人破産は裁判所に申立てを行う手続きであり、申立てが認められるためには様々な要件を満たす必要があります。

また、手続が中止となってしまう事由もあるため、これらを把握した上で適切に手続きを進めることも求められます。

さらに、申立てを行う際に必要となる書類は多岐にわたり、書類や添付資料を不足することなく用意しなければなりません。

もっとも、どのような要件を満たす必要があるのか、手続きをスムーズに進めるために注意すべきポイントはどこにあるのかについては、専門知識や経験がなければ判断が難しいことがほとんどです。

法人破産に精通している弁護士に相談することで、申立の要件や手続についてアドバイスを受けることができます。

(2)依頼をして書類作成や資料収集を任せることができる

法人破産を行うためには、破産手続開始申立書などさまざまな書類を作成して裁判所に提出する必要があります。

また、手続きを正確に進めるためには、裁判所から求められている破産手続きに必要な書類を不備のないように準備しなければなりません。

法人破産に精通した弁護士に相談することで、書類作成や資料の収集について任せることができたり、サポートを受けられますので、これらの作業にかかる負担を最小限に抑えることができます。

法人破産において必要な書類や資料については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

2024.02.20

法人破産の申立てに必要な提出書類について弁護士が解説

まとめ

本記事では、法人破産ができないケースや、弁護士に相談するメリットなどについて解説しました。

法人破産を行うためには、一定の要件を満たす必要があり、申立てができたとしても、予納金の納付ができない場合などには手続が中止となってしまうこともあります。

法人破産の手続きは複雑であり、専門的な知識や実務の経験が必要ですので、手続きを行うべきかお悩みの方は弁護士に相談してみるのがおすすめです。

弁護士法人みずきは、法人破産に精通した弁護士が在籍しております。

法人破産を行うことを検討されている方はお気軽にご相談ください。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。