業務命令に違反した社員に対してはどのように対応したらいい?業務命令違反に対する処分を行う際の注意点について解説

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「従業員が業務命令に違反した場合にはどのような対応をすべき?」
「業務命令違反に対する処分を行う際はどういう点に気を付けたらいい?」

業務命令に違反した従業員がいる場合、どのように対処したらよいのかお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、業務命令違反に対する処分の内容や処分を行う際の注意点などについて解説します。

業務命令違反があると考えられる状況であっても、従業員に対する処分が許されないこともあります。

この記事を読んで、業務命令違反に対する処分を適正に行うための参考となれば幸いです。

1.業務命令違反の概念

ここでは、業務命令違反に当たるのはどのような行為なのか、その内容について説明します。

(1)業務命令違反とは

業務命令違反とは、「従業員が会社や上司の業務命令に正当な理由なく従わないこと」をいいます。

法律上、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」(労働契約法6条)とされています。

この規定から、使用者は、労働者に対して、業務命令を出すことができると考えられています。

また、労働力を提供するにあたっては、単に労働力を提供するだけではなく、誠実労働義務および職務専念義務にしたがったものであることが必要となります。

つまり、業務命令違反とは、業務命令に対し、誠実労働義務および職務専念義務に反する形でこれに従わないことをいう、といえます。

業務命令違反があると、他の従業員にも悪影響を及ぼす可能性があるため、会社の規律維持のためにも、適切な対応が必要となります。

そこで、会社としては、業務命令に違反した従業員に対して、懲戒処分の対象とできる可能性が出てくることとなります。

(2)業務命令の要件

前記のとおり、会社は従業員に対し業務命令を発することができ、正当な理由なくこれに従わない従業員に対しては、懲戒処分の対象とできる可能性があります。

しかし、懲戒処分が法律上有効なものと認められるためには、業務命令自体が有効なものであることが必要です。

以下では、業務命令が有効となる要件について解説します。

#1:労働契約上の根拠があること

業務命令は労働契約に基づいて行うことができるものですから、その内容は職種・職務契約で定められた職務の範囲内のものであることが必要です。

例えば、営業職として雇用されている従業員に突然難解な経理業務を命じることは、契約上予定されていませんから、労働契約の範囲外となる可能性があります。

業務命令の有効性を考える際には、労働契約の範囲に含まれるものであるかどうかを検討する必要があります。

#2:命じた業務内容が適法であること

業務命令の内容が、法令や規則に違反する場合は、その命令は無効となってしまいます。

例えば、労働基準法などの法律や社内で定められている就業規則に違反する業務命令に対しては、従業員は従わなくてよいことになります。

#3: 権利濫用に該当しないこと

会社は、労働契約に基づいて、その範囲内で業務全般について、従業員に対して指示・命令を行うことができます。

しかしながら、これは無制限に許されるものではなく、会社の裁量として許される合理的な範囲を超えてしまった場合には、権利の濫用として無効となる可能性があります。

権利濫用に該当するかどうかは、ア 業務上の必要、イ 目的の正当性、ウ 従業員への不利益の程度の3つの要素を総合的に考慮して判断されます。

それぞれについて簡単に見てみましょう。

ア 業務上の必要性

業務上の必要性のない業務命令は、権利濫用に当たり無効となります。

ただし、必要性については比較的緩やかに認められる傾向にあり、例えば、繁忙期における残業命令や会社の経営状況悪化に伴う配置転換命令などは、業務上の必要性があるため、権利濫用には当たらないとされるケースが多いです。

イ 目的の正当性

不当な目的に基づく業務命令も、権利濫用に当たり無効となります。

例えば、前例がなく、特定の従業員への嫌がらせ、退職強要などの目的でなされたとしか思えないような配置転換、転勤等の業務命令は、不当な目的でされたものであり、権利濫用に当たるとして無効とされてしまう可能性があります。

ウ 従業員への不利益の程度

従業員に著しい不利益を与えるような業務命令は、権利濫用に当たり無効となります。

例えば、大幅な給与減額を伴う降格、介護が必要な家族がいたり、新生児がいたりする従業員に対する遠隔地への転勤などの業務命令は、従業員に著しい不利益を与えるものとして、無効と判断される可能性があります。

2.業務命令違反に対する対処法

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業務命令違反に対して、懲戒処分が認められる可能性があります。

しかし、まずはいきなり懲戒処分を検討するのではなく、改善の機会を与えた上で、段階的に対応することが望ましいです。

以下では、考えられる対処法について解説します。

(1)注意や指導を行う

これらの行為は、従業員に自身の行動を振り返る機会を与え、改善を促すことが目的です。

コミュニケーションを重視し、問題の根本原因を理解し解決することが重要となります。

注意、指導については、まず面談等を実施して口頭での注意を行った後、改善が見られなければ書面での警告を行うのがよいでしょう。

(2)戒告や減給などの懲戒処分を行う

注意や指導を行っても改善が見られない場合は、懲戒処分としての戒告や、減給などを行うことが考えられます。

懲戒処分の有効性についてはあとで詳述しますが、就業規則に定めておくことなどの要件を満たす必要がありますし、処分の内容が違反の程度に対応したものである必要もあります。

この段階では、問題の深刻さを従業員に認識させ、行動の改善を強く促すことが目的とされます。

(3)退職勧奨を行う

戒告等の懲戒処分を行っても業務命令違反が繰り返されている場合には、その従業員を退職させることを検討することとなります。

この場合は、まず強制ではなく、従業員の同意を得ることが前提となる退職勧奨を考えることになります。

退職勧奨を他の従業員のいる前で行うと、それ自体が業務命令違反をした従業員に対する圧力となり、退職を強制したということになって、のちに有効性が争われる原因となります。

また、退職を勧める理由についても十分な説明がなければ、これも争われる原因となってしまいます。

そのため、退職勧奨を行う際には、従業員と個別に面談するようにし、理由について十分に説明するのがよいでしょう。

さらに、うまく合意退職に至っていれば、その後紛争に発展することを防ぐことができます。

そのため、多少の退職金を支払うなど、ある程度譲歩して合意退職を実現させることも会社のメリットになると考えられます。

(4)解雇処分を行う

解雇は従業員の身分を失わせるもっとも重い処分です。

その方法には、普通解雇と懲戒解雇の二つがあります。

以下、それぞれについて簡単に解説します。

#1:普通解雇について

普通解雇とは、従業員の労務契約違反を理由に、会社が一方的に労務契約を終了させることをいいます。

普通解雇を適法に行うためには、「客観的に合理的な理由」があり、解雇を行うことが「社会通念上相当であること」(相当性)が認められる必要があります。

業務命令違反による普通解雇を行う場合には、業務命令違反の事実が客観的に認められており、普通解雇が処分として重すぎないと言えるだけの事情が必要となります。

(1)から(3)までに挙げたような方法を検討することなく、いきなり普通解雇を行ったような場合、普通解雇の効力が否定されてしまうリスクがあります。

また、普通解雇を行う場合には、30日前までに解雇予告をすること(即日解雇の場合には30日分の給与に相当する解雇予告手当を支払うこと)が必要になるほか、解雇理由証明書の交付等も必要になります。

なお、普通解雇は就業規則に規定がなくとも行うことが可能とされています。

仮に、普通解雇となる事由を就業規則に定めている場合には、業務命令違反の事実がその事由に該当すれば、解雇の理由があるものと認められやすくなりますが、この場合も相当性があることは必要になります。

また、懲戒事由を定めていればよいというわけではなく、懲戒事由に当たると判断して懲戒解雇を行ったものの、無効と判断されることもあります。

少なくとも、普通解雇で十分足りると考えられる場合には、懲戒解雇としては無効とされるでしょう。

このように、懲戒解雇を行うためのハードルは決して低いものではありません。

一方で、懲戒解雇の場合には、労働基準監督署の認定を受けることにより、普通解雇の際に必要とされた解雇予告や解雇予告手当の支払は不要とすることができます。

3.業務命令違反に対する懲戒処分を行う際の要件

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業務命令違反による懲戒処分が有効と認められるためには、以下の5つの要件を満たす必要があります。

(1)業務命令が有効であり違反事実が存在すること

業務命令自体が有効でなければ、業務命令に違反したとしても処分を行うことはできません。

業務命令が有効となるためには、前記のとおり、労働契約等による根拠があると認められること、命令した内容が適法であること、および権利の濫用となっていないことが必要です。

さらに、従業員が実際に業務命令に従わなかったという事実が必要です。

この事実は、書面等、なんらかの証拠によって証明できることが望ましいです。

(2)業務命令を拒否したことに正当な理由がないこと

業務命令を拒否したことに正当な理由がある場合は、その従業員の行為は業務命令違反に当たりません。

そのため、会社は業務命令違反に理由に処分をすることができなくなります。

労働行為としてのストライキなどがこれにあたります。

(3)懲戒事由と処分内容が就業規則にあらかじめ規定されていること

懲戒処分を行うためには、就業規則に以下の点が明記されている必要があります。

就業規則に明記されているべき事項

  • 業務命令違反が懲戒事由であること
  • 取りうる懲戒処分内容(戒告、減給、解雇等)

就業規則は従業員に周知されており、いつでも内容を確認できる状況にしていないと、それ自体の効力が否定されることもあります。

就業規則を定めておけばよいというものではないことには、注意が必要です。

(4)処分が適正な手続にしたがって行われていること

懲戒処分を行う際には、以下のような適正な手続を踏む必要があります。

懲戒処分を行う際に必要となる手続

  • 従業員に弁明・改善の機会を与えること
  • 事実関係を十分に調査すること
  • 処分の決定過程が公正であることを確認すること

これらの手続を踏むことによって、従業員に改善の機会を与えつつ、処分の正当性を確保することができます。

適切な手続を踏むことは、会社と従業員双方の利益を守ることに繋がります。

(5)違反内容に対して処分の内容が不当でないこと

処分自体の内容が、業務命令違反の内容・程度に照らして、社会通念上相当であることが求められます。

例えば、遅刻等の日常業務に関する軽微な違反に対していきなり懲戒解雇を行うことは、明らかに相当性を欠くことになります。

違反の程度や回数、業務への影響の大きさなどを考慮し、段階的な処分を行うことが望ましいと考えられます。

ただし、個々の事案によって判断が異なる可能性があるため、重大な処分を行う際には専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

4.処分を行う際の注意点

以下の注意点を踏まえることで、適切かつ公正な懲戒処分を行うことができ、従業員からの訴訟提起等の紛争リスクを最小限に抑えることができます。

(1)従業員とのやりとりは書面などで残す

書面で記録を残すことで、後の紛争時に証拠として活用できます。

また、処分の正当性を示す上でも重要な資料となります。

(2)弁明や改善の機会を与える

従業員に弁明の機会を与えることで、公平性を確保し、事実関係を明確にできます。

また、いきなり処分をするのではなく、改善の機会を設けることで、問題行動の改善可能性を探ることができます。

(3)段階的に処分を行う

軽い処分から始め、徐々に重い処分へ移行することにより、懲戒処分の相当性を確保できる可能性が高まります。

一度は軽い処分で済ませたのに、同じ業務命令違反が繰り返された場合には、さらに重い処分を与える正当性が認められやすくなるためです。

また、このような段階的な処分は、従業員に改善の機会を与えることにもつながります。

(4)合意による退職を目指す

解雇により、会社側から一方的に従業員との雇用関係を解消する場合、従業員との紛争を引き起こしかねません。

業務命令違反の程度がはなはだしい場合も、いきなり解雇とするのではなく、従業員に理由を説明し、合意退職に持ち込むことができれば、従業員の尊厳も守りながら円満な労使関係の終了を図ることができることになります。

そのため、できる限り合意による退職を目指していくことが良いと考えられます。

まとめ

本記事では、業務命令違反に対する処分の内容や注意点などについて解説しました。

業務命令違反による処分が有効となるためにはいくつかの要件を満たす必要があり、これを満たさない場合には処分の有効性や損害賠償について争いとなるリスクがあります。

従業員との間に法的紛争を抱えると、争いが長期化する可能性もあるため、業務命令違反に対する処分を行うことを検討する際には、専門家である弁護士に一度相談することをおすすめします。

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。