法人破産における代表者の責任とは?代表者の役割や弁護士に相談するメリットを解説
「法人破産を行う際に、代表者はどのような責任を負うのか」
「代表者が法人破産の手続で果たすべき役割について知りたい」
会社、法人の代表者の中には、法人破産を行うことを検討されていて、このような疑問や不安をお持ちの方もいるかと思います。
法人破産は、法人の債務整理手続のうちの1つで、裁判所に申立てを行って進める手続きです。
会社の代表者は、法人破産の中で責任が問われることがある場合もあります。
また、代表者自身も破産手続をしなければならないケースも少なくありません。
この記事では、法人破産手続においてどのようなケースにおいて代表者の責任が問われるのか、代表者の破産手続が必要な場面などについて解説します。
1.法人破産において代表者の責任が問われるケース
法人破産を行う場合、原則として代表者の責任が問われることはありません。
ただし、一定のケースにおいて責任を負う場面もあります。
具体的には、以下のようなケースです。
- 代表者が法人の債務の連帯保証人である場合
- 代表者が法人または第三者に対して損害賠償責任を負う場合
- 代表者が財産散逸防止義務に反している場合
それぞれについてご説明します。
(1)代表者が法人の債務の連帯保証人である場合
法人が融資を受ける際に、代表者が法人の債務について連帯保証人となっているケースでは、法人破産をしても代表者は返済の責任を免れません。
連帯保証人は、債務者である法人と連帯して債務を返済する義務を負っているからです。
法人破産は、法人の財産を清算し、法人格を消滅させることを目的としています。
法人の債務は最終的にはすべて消滅するものの、代表者が連帯保証をしている場合には、代表者に支払義務が残るのです。
代表者が、この法人の債務について返済が困難である場合には、代表者自身も債務整理の手続を行うことを視野に入れましょう。
(2)代表者が法人または第三者に対して損害賠償責任を負う場合
代表者は、法人に対して忠実義務や善管注意義務を負っています。
忠実義務とは、株式会社のために忠実にその職務を行う義務であり、善管注意義務とは、社会通念上あるいは客観的に見て当然要求される注意を払う義務です。
代表者がこれらの義務に違反して法人に損害を与えた場合や、代表者が職務を懈怠して第三者に損害を与えた場合には、損害賠償義務を負わなければなりません。
義務に違反したケースとは、法令違反行為を行ったことや経営判断を誤って法人に損害を与えたような場合です。
また、代表者が職務を怠慢したケースとは、代表者や取締役が悪意または重大な過失によって職務懈怠行為を行い、それによって第三者に損害を与えた場合などです。
もっとも、これらの責任について追及されるケースはそれほど多くなく、特に経営判断の失敗を理由として損害賠償責任が認められることはほとんどありません。
(3)代表者が財産散逸防止義務に反している場合
法人破産を行う際には、代表者に対して、法人の財産が流出しないように財産保全に努める財産散逸防止義務が発生します。
したがって、この義務に違反し、法人の財産を流出させた場合には、損害賠償義務を負ってしまいます。
具体的には、特定の取引先にのみ債務の返済を行う行為や、法人の財産を隠匿する行為がこれにあたります。
破産手続では、すべての債権者に平等に財産が配当される「債権者平等の法則」が重視され、特定の債権者が優遇される行為は認められていないからです。
また、法人破産において財産を隠す行為は詐欺破産罪に該当する可能性があります。
悪質性の高い行為については、破産法265条によって刑事責任を負う可能性があるため、不当に法人の財産を処分したり移転したりする行為は絶対に止めましょう。
2.代表者個人は自己破産する必要があるのか
一般的には、法人破産は代表者個人に影響を与えません。
法人と代表者は法律的には別人格と扱われるためです。
もっとも、場合によっては代表者個人も自己破産手続を行わなければならないケースもあります。
以下では、具体的に必要なケースと不要なケースをご説明します。
(1)代表者の自己破産が必要なケース
代表者が法人の債務について連帯保証人となっている場合は、代表者自身も自己破産しなければならないケースが多くあります。
また、代表者が法人から借金している場合も、代表者の自己破産が必要になることがあります。
法人破産の手続きでは、法人が所有する財産は破産管財人がすべて金銭に換えていきます。
会社が代表者に対する債権を有している場合は、その債権も換金する対象となるため、破産管財人は代表者に対して返済を求めます。
代表者が自らの財産で返済することができれば自己破産を行う必要はありませんが、法人の債務は個人で支払いができるほどの金額ではないことも少なくありません。
また、法人から借金をしている場合も、その金額が大きい場合には自らの財産を処分しても返済が不可能となることも考えられます。
この借金について代表者自身が返済できない状況であれば、自己破産の必要があるケースもあります。
法人破産に伴い、代表者個人も自己破産を行う際には、法人破産を申し立てた裁判所に同時に申し立てることが可能です。
法人破産の申立てについては、以下の記事も参考になりますので、合わせてご参照ください。
(2)代表者の自己破産が不要なケース
代表者が法人の債務の連帯保証人である場合や法人から借金をしている場合には、代表者自身も自己破産をする必要性が生じますが、「経営者保証に関するガイドライン」を利用することで不要となるケースもあります。
「経営者保証に関するガイドライン」とは、一定の要件を満たした場合に、代表者による保証なしで法人が融資を受けられたり、すでに融資を受けている債務についての経営者保証を見直すことができたりする制度です。
ただし、利用するためには事前にさまざまな準備をする必要がありますので、要件等をあらかじめ確認しておきましょう。
3.法人破産における代表者の果たす役割
法人破産では、手続きを進めるにあたり、法人の代表者として意思決定をしたり、説明したりする場面があります。
法人破産において、代表者が果たす役割には以下のものがあります。
- 法人破産を行うことの意思決定
- 法人破産に至った経緯の説明
- 債権者集会への出席
それぞれについて、詳しく解説します。
(1)法人破産を行うことの意思決定
法人破産を行う場合は、取締役会設置会社の場合、取締役会を開く必要があります。
取締役が1人の場合は、その取締役が会社の代表として法人破産の意思決定を下すことができます。
取締役が複数人いる場合は、個別に取締役の同意を得るか、取締役会設置会社であれば全会一致の承認を得なければなりません。
そのうえで、取締役全員の署名、押印した議事録を裁判所に提出する必要があります。
法人破産を申し立てることができる者の範囲や申し立てる際の注意点については、以下の記事も参考になります。
(2)法人破産に至った経緯の説明
法人破産をする際には、代表者は裁判官や破産管財人に対して、法人破産に至った経緯を説明する義務を負います。
破産管財人とは、法人が所有する財産を代わりに管理・処分する者であり、一般的には弁護士の中から選任されます。
もしも説明を拒んだ場合や虚偽の説明を行った場合には、刑事罰を受けることもあります。
破産法では、破産管財人などの職務を不正な手段で妨害した場合は管財業務妨害行為に該当すると定めており、偽計又は威力を用いて破産管財人の職務を妨害することは犯罪行為です。
経緯を説明する際は嘘偽りなく真摯に対応するようにしましょう。
(3)債権者集会への出席
法人の代表者は債権者集会への参加も義務付けられています。
債権者集会とは、破産管財人が債権者に対して、法人の財産状況や、破産手続の進捗状況について説明し、債権者の意見を聴取するための集会です。
債権者集会では主に破産管財人が破産手続の状況について説明するため、代表者が債権者に説明を行うことはあまりありませんが、質問などを受けた際には必要に応じて説明ができるようにしておきましょう。
また、代表者が債権者集会を欠席してしまうと、法人破産の手続きが遅れるなどの支障が生じます。
そのため、手続きを弁護士に依頼している場合であっても、必ず出席することが必要です。
債権者集会の詳細や流れについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、ご参照ください。
4.法人破産について代表者が弁護士に相談するメリット
法人破産は裁判所に申立てを行い、裁判所や破産管財人に必要な資料の提出や対応を行っていく必要があります。
円滑に進めるためには専門知識が必要なため、法人破産を行うことを検討している場合は予め弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することによるメリットは、以下のとおりです。
- 適切な手続きの進め方の提案を受けることができる
- 必要な準備を任せることができる
- 債権者の対応を任せ、手続きを進める際の注意点についてサポートが受けられる
順にご説明します。
(1)適切な手続きの進め方の提案を受けることができる
法人破産を進めるにあたっては、会社の負債額や資産状況、代表者個人が連帯保証をしているかどうかなど、会社がどのような状態にあるか正確に把握する必要があります。
弁護士はこれらを踏まえて最適な解決方法の提案、アドバイスをできるため、知識がない方でも弁護士のサポートを受けることで、安心して手続きを進めることが可能です。
特に、代表者個人も自己破産を行えば、代表者の財産や今後の生活への影響も生じる可能性があります。
自己破産をすることで、家や車などの財産を処分する必要があったり、ブラックリストに載ってしまうため、慎重に判断しなければなりません。
弁護士からは代表者個人の自己破産についても、合わせて行うべきか否かアドバイスを受けることができますので、ご自身の財産状況に応じて最適な方法を選択できるのです。
(2)必要な準備を任せることができる
法人破産を行うには、申立書類の作成や必要書類の収集、従業員への対応などさまざまな準備が必要です。
特に、事前に破産手続することが外部に漏れてしまうと、一部の債権者によって抜け駆け的な債権回収が行われる可能性もあります。
弁護士に破産手続を依頼することで、代理人としてこれらの準備を任せたり、サポートを受けることができます。
法人破産を行う際に必要な書類や資料については、以下の記事も参考になります。
(3)債権者の対応を任せ、手続きを進める際の注意点についてサポートを受けられる
債権者との対応を弁護士に任せ、弁護士が代理人として債権者に対する対応を行うことができます。
また、法人破産を行うためには、代表者にも一定の役割や義務が課されます。
特に、法人の財産を不当に流出させる行為は禁止されており、一部の債権者や取引先への返済、法人の財産の移転や処分などを行ってしまうと、代表者が刑事責任を問われる可能性があることに注意が必要です。
弁護士に相談することで、代表者が法人破産において注意すべき点などについて事前にアドバイスやサポートを受けられます。
適切かつ迅速に手続きを進めるために弁護士のアドバイスを受けながら、適切な行動をとるようにしましょう。
まとめ
本記事では、法人破産において、代表者が責任を負う場合や、法人破産における代表者の役割について解説しました。
代表者は原則として法人破産において責任を負いませんが、一定の場合には損害賠償責任を負うことや、代表者個人が破産手続を行う必要があります。
会社の経営状態に不安を感じる場合には、なるべく早期に弁護士に相談しておくことがおすすめです。
弁護士法人みずきでは、これまでに数多くの法人破産の手続に対応してきました。
経験豊富な弁護士が丁寧にお話を伺いますので、法人破産の申立てをご検討の方はお気軽にご相談ください。
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