否認権の行使とは?その効果や具体的なケースについて弁護士が解説します

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。

「自己破産における否認権行使ってなに?」
「どのような場合に否認権が行使されるのか」

自己破産を行うことを検討されている方の中には、このような疑問や不安をお持ちの方もいるかと思います。

自己破産は、同時廃止事件か管財事件に振り分けられ、管財事件となった場合には破産管財人が選任されます。

破産管財人は、破産者の財産調査や管理・処分などの重要な役割を担い、そのうちの1つとして否認権と呼ばれる権利を有します。

否認権が行使されると、破産者が行った行為の法的効力が破産財団との関係で否定され、それによって失われた財産を財団に取り戻される場合があるのです。

この記事では、否認権の対象となる行為や、否認権が行使されたときの効果についてご説明します。

1.否認権の行使の概要

自己破産の申立てがなされると、破産者の財産状況などによって、以下の手続に分かれます。

自己破産の2つの手続

  • 同時廃止事件
  • 管財事件

このうち、管財事件に振り分けられると、破産者の財産調査や管理・処分を行うために破産管財人が選任されます。

破産管財人は財産の調査・管理・処分、債権者への配当などを行います。

債権者への配当は平等に行われなければならないため、不当に破産者の財産が流出してしまった場合には、これを破産財団に取り戻したうえで配当を行う必要があります。

そのような際に行使されるのが、否認権です。

(1)否認権とは

否認権とは、破産手続開始決定前に破産者が行った行為(責任財産を不当に減少させる行為や債権者間の衡平を害する行為)の法的効力を破産財団との関係において失わせ、いったん財団から失われた財産を財団に回復させることができる破産法上の権利です。

例えば、破産者が債権者を害することを知ったうえで、第三者に対し不動産などの高額な財産を売却・譲渡することで、不当に財産を流出してしまったとします。

自己破産は法に基づいた制度によって、借金の支払義務を免除(免責)してもらう手続ですので、破産によって債権者が一方的に不利益を受けないように、申立時に破産者が所有する財産を換価・処分し、債権額に応じて債権者に平等に配当する必要があります。

しかし、破産者が不当に財産を流出してしまった場合には、債権額に応じた平等な配当ができなくなってしまいますから、破産管財人は否認権を行使して破産者の行為の効果を否定し、破産財団に取り戻さなければならないのです。

(2)否認権行使の効果

破産管財人が否認権を行使すると破産者が行った行為の法的効果を否定し、流出した財産を財団に回復させることができます。

例えば、破産者が複数の債権者から借金をしており、弁護士介入後、特定の債権者だけに返済をしてしまったケースで考えてみましょう。

自己破産の手続において、債権者は債権額に応じて平等に配当を受けることができます。

そのため、手続きが開始した以上、特定の債権者だけが返済を受けられることは本来あってはなりません。

そのため、特定の債権者だけに返済が行われた場合、破産管財人は否認権を行使して破産者の財産を財団に取り戻し、債権者に平等に配当がなされるようにしなければならないのです。

このように、否認権は自己破産の手続において、債権者の平等を保障するために設けられた制度ということができます。

2.否認権が行使されるケース

否認権が行使される破産者の行為については、財産を減少させる行為や債権者平等に反する行為が当てはまります。

具体的には、以下の2つのケースが挙げられます。

否認権が行使される主なケース

  • 詐害行為
  • 偏頗行為
  • 無償行為

順にご説明します。

(1)詐害行為

詐害行為とは、破産者が自己の財産について売却・譲渡などを行うことによって、破産者の責任財産を絶対的に減少させる行為を指します。

詐害行為に該当するものとしては、以下のようなケースが挙げられます。

詐害行為に該当する主なケース

  1. 一般的詐害行為
  2. 対価的均衡を欠く債務消滅行為
  3. 相当な対価を得てした財産処分行為

それぞれについてご説明します。

#1:一般的詐害行為

破産法における詐害行為とは、破産者の責任財産を絶対的に減少させることです。

破産債権者を害する行為を否認する詐害行為否認は、①時期を問わず、詐害行為を対象とするもの、②支払停止又は破産手続開始申立て後の詐害行為を対象とするものに分かれます。

以下の2つの条件を満たしている場合には、その行為が行われた時期に関わらず、詐害行為として法的効果が否定されます(上記①)。

行為の時期を問わず詐害行為として効果が否定されるための要件

  • 破産者が詐害意思をもって破産債権者を害する行為をしたこと
  • その行為の当時に受益者(財産を譲り受けた人)が破産債権者を害することを知っていたこと

例えば、所有する不動産を非常に安い値段で知人に売却したようなケースが当てはまります。

また、支払停止または破産手続申立後にした債権者を害する行為についても禁止されています(上記②)。

支払停止とは、破産者が支払不能であることを外部に明らかにすることであり、弁護士が債権者に対して受任通知を送付した場合などがこれに該当します。

支払停止・破産手続申立後に財産を非常に安い値段で売却すれば、否認権行使の対象となります。

もっとも、受益者がその行為の時点で破産債権者を害することを知らなかった場合や破産手続開始の1年以上前の行為である場合には、否認権行使の対象とはなりません。

#2:対価的均衡を欠く債務消滅行為

代物弁済によって、債務額と比較して過大な財産を給付する行為についても否認権行使の対象となります。

代物弁済とは、債務の返済をお金ではなく他の物に代えて行うことで、債務を消滅させる行為です。

対価的均衡を欠く債務消滅行為の例として、100万円の借金に対して200万円の価値がある車で代物弁済を行う場合などがこれにあたります。

なお、このような場合には、代物弁済行為の全体が否認権行使の対象となるわけではなく、過大な部分のみについて効力が否定される点に注意が必要です。

しかし、特定の債権者のみに弁済を行う行為は、後述する偏頗行為にも該当するため、債務消滅行為自体の法的効果を否定される可能性もあります。

#3:相当な対価を得てした財産処分行為

債務者が自身の財産を相当な価格で処分し、受益者から相当の対価を得ているケースでは、財産の減少をきたすものではないため、原則として詐害行為にはあたりません。

しかし、不動産などの財産を金銭に換えてしまうと、財産の隠匿などにつながるリスクがあるため、以下の条件をすべて満たす場合には、例外的に否認権の対象となります。

否認権行使の対象となるケース

  • 破産者において他の債権者を害する処分をするおそれを現に生じさせること
  • 破産者が財産を隠す目的で処分を行ったこと
  • 相手方が財産の処分行為が行われた時点において破産者の財産隠匿の目的を知っていたこと

これらの条件に当てはまれば、適正な価格で財産を処分をしていても、否認権行使の対象となり、破産者の財産を財団に取り戻すことになります。

(2)偏頗行為

偏頗行為とは、特定の債権者だけに借金を返済したり担保を提供したりする行為です。

否認権の対象となる偏頗行為には、特定の債権者への弁済であることの他、以下の要件が必要です。

偏頗行為の要件

  1. 支払不能になった後または破産手続申立てがあった後の担保供与または債務消滅に関する行為であること
  2. 債権者(受益者)が債務者の支払不能状態などを知っていたこと

なお、破産者に返済の義務がないものや、その時期に返済する必要がなかったものについても、支払不能になる前30日以内に行われた行為であれば否認の対象となります。

ただし、破産債権者が他の破産債権者を害する事実を知らなかった場合は否認の対象となりません。

(3)無償行為

無償行為とは、財産の贈与や債務の免除・放棄などです。

支払停止や破産手続の申立後(またはその前から6か月以内)に無償行為またはこれと同視すべき有償行為があった場合、否認権行使の対象となります。

例えば、著しく低額で財産を処分するような行為が当てはまります。

なお、一般的詐害行為とは異なり、受益者が行為の時点で破産債権者を害することを知っていたか等の主観的要素は問題とならず、否認権行使の対象となる点にも注意が必要です。

3.破産管財人が否認権を行使する主な方法

破産管財人が否認権を行使する方法は主に3つあります。

具体的には、以下のとおりです。

破産管財人が否認権を行使する主な方法

  1. 相手方との交渉
  2. 否認の請求又は抗弁
  3. 否認の訴え

それぞれ見ていきましょう。

(1)相手方との交渉

否認権行使の対象となる行為を行った相手方に対して交渉する方法です。

交渉は裁判外で任意に行われるもので、最も一般的な方法です。

例えば、破産者から財産を受け取ったなど、何らかの利益を得た人に対して通知を送付し、相手方と直接交渉します。

否認権を行使する可能性があることを相手に対して知らせ、和解をすることで、否認権を行使した場合と同様に財産を取り戻します。

(2)否認の請求

否認の請求をすることについて破産裁判所の許可は不要です(否認の訴えの提起の場合は許可が必要)が、同請求をするにあたっては裁判所との事前協議が求められます。

否認の請求をするためには、破産管財人は否認の原因である事実について疎明しなければなりません。

疎明とは、裁判の前提となる事実について、確からしいという推測を裁判官に生じさせることです。

裁判官に「この事実は真実らしい」と確信を抱かせる証明と異なり、疎明は推測を生じさせれば事足ります。

疎明をするためには書面による証拠を提出する必要がありますので、破産管財人はそれ相応の証拠を集める必要があります。

(3)否認の訴え

否認の訴えは、破産管財人が訴訟を提起することです。

通常の裁判と同様の流れに沿って行われますので、他の方法と比べて解決まで時間を要します。

まとめ

本記事では、自己破産における否認権行使の概要や行使されるケースや効果などについて解説しました。

破産管財人が否認権を行使するケースには、破産者が意図的に行った行為もあれば、知らず知らずのうちに行ってしまったような行為もあります。

否認権が行使されると、自己破産手続自体の進行がストップするなど、手続の長期化や煩雑化を招くおそれがあります。

そのため、自己破産をする場合には、弁護士に相談して手続を進め、自己判断で財産を処分しないよう注意しましょう。

弁護士法人みずきでは、これまでに自己破産をはじめ、数多くの債務整理の手続に対応してきました。

経験のある弁護士が丁寧にお話を伺いますので、自己破産を行うことをご検討の方はお気軽にご相談ください。

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執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

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