交通事故で死亡したときに労災は適用されるの?労災を使用するメリットと手続方法

執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

初動が大事。様々なことに当てはまりますが、法律問題もそうです。しかし、今まで法律問題に関わったことがなく、どうすればよいかわからない方が多いと思います。そうして初動が遅れると、最良の解決は難しくなってしまいます。
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「交通事故で死亡したときに労災は適用されるのか」
「交通事故で労災を使用するにはどうしたらいいのか」

ご家族が勤務中に死亡事故に巻き込まれた方の中には、労災が適用されるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。

交通事故に遭った場合には、その損害について加害者あるいは加害者側の任意保険会社に請求を行うのが一般的です。

もっとも、その交通事故が通勤中や業務中に生じた場合には、労災保険に対して保険金を請求することもできます。

本記事では、交通事故で死亡したときに労災が適用されるための要件や受け取ることができる保険金などについて解説します。

1.交通事故で死亡したときに労災は適用されるのか

ご家族が通勤中や業務中に交通事故に遭って死亡した場合は、労災保険に申請して保険金を受け取れる場合があります。

労災保険は所属する企業が加入していれば、国籍や雇用形態に関係なく利用可能です。

なお、労災保険が適用される対象には以下の2パターンがあります。

労災保険が適用される対象

  1. 業務災害
  2. 通勤災害

順にご紹介します。

(1)業務災害

業務時間内の労働中や業務時間内での休憩中・出張中に事故に遭った場合は、業務災害として処理されます。

例えば、商品の配送の最中に大型トラックと衝突した場合などがこれに当たります。

しかし、業務時間内の交通事故のすべてが必ずしも認められるわけではなく、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件が必要です。

業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態で事故が発生していることをいいます。

そのため、業務に従事していなくても、職場内での休憩時間や出張など職場外でも事業主の支配下にあるといえる場合には、業務遂行性が認められます。

また、業務起因性とは、業務と死傷結果との間に因果関係があることです。

たとえば、以下のケースに当てはまる場合には、業務遂行性または業務起因性がないと判断され、労災は適用されません。

業務災害に該当しないケース

  • 労働者が就業中に私用(私的行為)を行い、または業務を逸脱する恣意的行為をしていて、それらが原因となって災害を被った場合
  • 労働者が故意に災害を発生させた場合
  • 労働者が個人的なうらみなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
  • 地震、台風など天災地変によって被災した場合 (ただし、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、業務災害と認められることがある)

(2)通勤災害

通勤する際の事故に遭った場合は、通勤災害として処理されます。

通勤災害に該当するケースは以下のとおりです。

通勤災害に該当する主なケース

  • 住居と就業の場所との間の往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動

ただし、帰宅途中の私的な行動中の事故は通勤途中とみなされず、労災が認められない可能性が高いです。

具体的には、終業後の飲み会や買い物などの最中に交通事故に遭った場合などが挙げられます。

もっとも、日常生活上必要な行為でやむを得ない最小限度の場合であれば、通勤と認められることがあります。

2.労災保険から受け取ることができる給付金

労災認定がされた場合、さまざまな給付金を受け取ることができます。

受け取ることができる給付金は以下のとおりです。

給付金 内容
療養補償給付 交通事故による傷病の療養に必要な費用の給付
休業補償給付 交通事故による傷病が原因で労働賃金を受け取れない場合の給付
障害補償給付 交通事故による傷病が完治せずに後遺障害が残った場合の給付
遺族補償給付 交通事故によって労働者が死亡した場合に一定範囲の遺族(労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)に対する給付
葬祭料 労働者が亡くなった際に葬祭を行った者に対する給付
傷病補償年金 療養開始後1年6か月を経過しても完治しておらず、障害の程度が高度(傷病等級第1級~第3級)と認められる場合の給付
介護補償給付 交通事故による傷病のため介護を必要とする場合に費用を補填するための給付

どの給付金を受け取ることができる可能性があるのかチェックしてみましょう。

3.労災保険を利用するメリット

労災保険を利用することでさまざまなメリットがあります。

主なメリットは以下の4つです。

労災保険を利用するメリット

  1. 過失の影響を受けない
  2. 特別支給金が付与される
  3. 遺族補償年金前払一時金制度がある
  4. 任意保険や自賠責保険との併用ができる

順にご紹介します。

(1)過失の影響を受けない

労災保険による給付金の支給額は、被害者の過失の影響を受けません。

任意保険の賠償金は、被害者の過失割合に応じて減額されてしまいます。

また、自賠責保険の保険金も被害者に7割以上の過失がある場合には一定の割合で減額(重過失減額)されます。

そのため、労災保険において被害者に過失が認められても過失相殺を受けない点は大きなメリットといえるでしょう。

被害者側に過失があると、加害者側に対して請求できる損害賠償金は減額されてしまいますが、労災保険であれば満額受け取ることができます。

(2)特別支給金が付与される

労災保険を利用すると、「社会復帰促進等事業」の一環として保険給付に上乗せして特別給付金が支給されます。

業務災害や通勤災害に巻き込まれて死亡した場合、その遺族に対して遺族特別支給金や遺族特別年金、遺族特別一時金を受け取ることが可能です。

遺族特別支給金とは、業務災害または通勤災害によって労働者が死亡した場合に受給者に支払われるものです。

金額は一律300万円となっています。

受給者が2人以上いる場合には300万円を人数で割って均等に支払われることになります。

遺族特別年金とは、遺族補償年金または遺族年金の受給権者に支払われるものです。

遺族(受給資格者)の数などに応じて支給額が変わります。

1人の場合、算定基礎日額(賞与等の給付基礎日額に含まれない賃金等を365で割った金額)の153日分です。

ただし、遺族が55歳以上の妻または一定の障害状況にある妻の場合は175日分となります。

さらに、遺族が2人の場合は給付基礎日額の201日分、3人の場合は223日分、4人の場合は245日分となりますが、これらの場合、人数分で割った金額をそれぞれの受給者が受け取ることになります。

遺族特別一時金とは、遺族補償一時金または遺族一時金の受給権者に支払われるものです。

金額は、①労働者の死亡当時、遺族補償年金または遺族年金の受給資格者がいないときには、算定基礎日額の1000日分となり、②遺族補償年金または遺族年金の受給権者がすべて失権した場合に受給権者であった遺族の全員に対して支払われた遺族特別年金の合計額が算定基礎日額の1000日分に達していないときには、算定基礎日額の1000日分と遺族特別年金の合計額の差額となります。

これらの支給金は損害賠償金との支給調整の対象とはなりませんので、結果として、損害賠償金に上乗せされる形で受け取ることができます。

(3)遺族補償年金前払一時金制度がある

葬儀や支払等でお金が必要なときは、遺族補償年金前払一時金制度によって補償を前もって受け取ることができます。

遺族補償年金は、本来であれば2か月に1回支給されるものですが、これをまとめて前払いしてもらえます。

利用できるのは1度だけですが、給付基礎日額を200日から400、600、800、1000日分まで選択することができるため、必要な金額に応じて利用できます。

また、この請求ができるのは、遺族補償年金の請求と同時か、遺族補償年金の支給決定がされた日から1年以内という制限があります。

(4)任意保険や自賠責保険との併用ができる

労災保険は、加害者側の任意保険や自賠責保険と併用することができます。

もちろん、併用した場合でも、治療費・通院交通費などと療養給付、休業損害と休業補償給付などのように補償が重なる部分については支給調整が行われるため、二重で補償を受け取れるわけではありません。

しかし、労災からの休業補償給付の特別給付金、自賠責・任意保険からの慰謝料は、どちらかからしか支払われないものであるため、併用することにより、受領できる金額を増やすことができる場合があります。

また、後遺障害についても労災、自賠責保険それぞれで認定を受けることができます。

労災、自賠責保険、任意保険、それぞれにメリットがありますので、どの制度で支払を受けていくかについては、弁護士に相談した上で手続を進めていくことが最も重要です。

4.労災保険を利用する方法

ご家族が勤務中に死亡事故に遭った場合、労災保険に請求できるものとしては、遺族補償年金と遺族補償一時金の2つがあります。

遺族補償年金は、一定の受給資格を有する場合に支給され、受給資格を有さない場合は遺族補償一時金が支払われます。

順にご紹介します。

(1)遺族補償年金

遺族補償年金は、受給資格者(被災労働者の収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・祖父母・兄弟姉妹)のうち、最先順位者(受給権者)に対して支払われます。

受給権者となる順位は以下のとおりです。

遺族補償年金の受給権者の順位

  1. 妻、または60歳以上か一定障害の夫
  2. 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
  3. 60歳以上か一定障害の父母
  4. 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
  5. 60歳以上か一定障害の祖父母
  6. 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上、または一定障害の兄弟姉妹
  7. 55歳以上60歳未満の夫
  8. 55歳以上60歳未満の父母
  9. 55歳以上60歳未満の祖父母
  10. 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹

また遺族の数(受給権者および受給権者と生計を同じくしている受給資格者の数)などに応じて支給額が変わります。

1人の場合、支給額は給付基礎日額(労災事故発生の直前3か月の賃金をその間の日数で割った金額)の153日分です。

ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状況にある妻の場合は、給付基礎日額の175日分となります。

遺族数が2人の場合は給付基礎日額の201日分、4人の場合は223日分、4人の場合は245日分と変わっていきます。

受給権者が2人以上の場合は、その人数で割った金額をそれぞれの受給権者が受け取ることになります。

請求する際は、受給権者の名前で、被害者が所属していた事業所を管轄する労働基準監督署長宛てに、遺族補償年金支給請求書または遺族年金支給請求書と以下の書類をあわせて提出することとなります。

遺族補償年金を請求する際に必要な書類

  • 「死亡診断書、死体検案書、検死調書またはそれらの記載事項証明書など、労働者の死亡の事実および死亡の年月日を証明することができる書類」
  • 「戸籍の謄本、抄本など、請求人および他の受給資格者と死亡労働者との身分関係を証明することができる書類」
  • 「請求人および他の受給資格者が死亡労働者の収入によって生計を維持していたことを証明することができる書類」
  • 請求人または他の受給資格者が死亡労働者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者であるときは、「その事実を証明する書類」
  • 請求人および他の受給資格者のうち一定の障害の状態にあることにより受給資格者となる者があるときは、「診断書など労働者の死亡時から引き続き当該障害の状態にあることを証明することができる書類」
  • 受給資格者のうち、請求人と生計を同じくしている者があるときは、「その事実を証明する書類」
  • 妻が障害の状態にある場合は、「診断書など、労働者の死亡の時以後障害の状態にあったことおよびその障害の状態が生じまたはその事情がなくなった時を証明することができる書類」
  • 同一の事由により、遺族厚生年金、遺族基礎年金、寡婦年金等が支給される場合は、「支給額を証明することができる書類」

(2)遺族補償一時金

遺族補償一時金は、遺族補償年金の受給資格がない場合に請求できます。

受給権者の順位は以下のとおりです。

遺族補償一時金の受給権者の順位

  1. 配偶者
  2. 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
  3. その他の子・父母・孫・祖父母
  4. 兄弟姉妹

同順位の人が2人以上いる場合は、全員が受給権者になります。

請求する際は、受給権者の名前で、被害者が所属していた事業所を管轄する労働基準監督署長に、遺族補償一時金支給請求書または遺族一時金支給請求書を以下の書類とあわせて提出することになります。

遺族補償一時金を請求する際に必要な書類

  • 死亡労働者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者であるときは、「その事実を証明する書類」
  • 死亡労働者の収入によって生計を維持していた者である場合は、「その事実を証明する書類」
  • 労働者の死亡当時、遺族補償年金を受けることのできる遺族がいない場合は、「死亡診断書、死体検案書、検死調書またはそれらの記載事項証明書など、労働者の死亡の事実および死亡の年月日を証明することができる書類」「 戸籍の謄本、抄本など、請求人と死亡した労働者との身分関係を証明することができる書類」
  • 遺族補償年金の受給権者が最後順位者まで全て失権した時で、受給権者であった遺族の全員に対して支払われた年金の額および遺族(補償)年金前払一時金の額の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合は、「戸籍の謄本、抄本など、請求人と死亡した労働者との身分関係を証明することができる書類」

まとめ

身内が業務中や通勤中に遭った交通事故によって死亡したときは、労災保険を受給することができます。

労災保険は被害者の過失に影響を受けず、特別支給金や遺族補償年金前払一時金を受け取ることができる点が大きなメリットです。

必要書類を揃えて事業所の所轄労働基準監督署長宛に提出しましょう。

もっとも、提出書類や手続等は煩雑であることが多いため、不明なことがある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人みずきでは、交通事故に関する相談を無料で受け付けておりますので、交通事故で労災保険の利用を検討されている方はお気軽にご相談ください。

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執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

初動が大事。様々なことに当てはまりますが、法律問題もそうです。しかし、今まで法律問題に関わったことがなく、どうすればよいかわからない方が多いと思います。そうして初動が遅れると、最良の解決は難しくなってしまいます。
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