支払督促の異議申立てとは?手続の流れを弁護士が解説
「支払督促に対する異議申立ての手続の流れは?」
「支払ができない場合にも異議申立てをすべき?」
借金の返済が滞り、裁判所から支払督促の送達を受けてしまった方の中には、このような疑問をお持ちの方もいるかと思います。
支払督促が送達された場合には、2週間以内に督促異議の申立てを行わないと債権者が強制執行の手続をすることが可能となり、差押えにより財産を失うリスクがあります。
本記事では、支払督促の異議申立ての流れや債務の支払ができない場合の対処法などについてご説明します。
1.支払督促の異議申立てと手続の流れ
支払督促の手続には、債務者による督促異議申立ての制度があります。
督促異議申立ては、債務者に対して支払督促が送達された時から仮執行宣言が付された支払督促の送達を受けた時から2週間を経過するまでの間に行うことができます。
しかし、仮執行宣言が付された支払督促の送達を受けたあとは、異議申立てをしたとしても、仮執行宣言の効力を失わせることはできません。
そのため、強制執行を防ぐことはできません。
強制執行を防ぐには、最初に支払督促の送達を受けた時から2週間以内に督促異議の申立てを行うことが必要です。
以下では支払督促の概要と督促異議申立ての流れなどについて解説します。
(1)支払督促とは
支払督促は、裁判所が債権者の申立てによって、債務者に金銭の支払を命じる法的手続です。
名前が似ている督促状や催告書と混同されることもありますが、支払督促とは法的効力の点で明確な違いがあります。
督促状や催告書は、債権者が私的に債務者へ送付する書面です。
これらの書面には、時効完成を妨げる催告以外の法的な効力がなく、直ちに差押えなどの強制執行が行われるわけではありません。
しかし、仮執行宣言が付された支払督促は、判決などと同じく強制執行を行うことができるもの(債務名義)となります。
このように、支払督促と債権者から送られてくる督促状や催告書とは明確な違いがあります。
(2)督促異議申立ての流れ
督促異議の申立ては、以下の手順で行います。
- 裁判所から支払督促が送達される
- 督促異議申立書を裁判所に提出する
- 裁判所からの呼出状が送達される
それぞれのポイントについてご説明します。
#1:裁判所から支払督促が送達される
裁判所から支払督促が送達された場合には、その日から2週間以内に督促異議の申立てを行う必要があります。
支払督促は、債権者の申立てに基づき、書面審査によって手続が開始されます。
そのままでは債務者が反論することもなく債権者が債務名義を取得してしまいますから、債務者にも反論の機会を与える必要があります。
そこで、債務者が督促異議の申立てを行うことによって、支払督促は効力を失い、通常の民事訴訟に移行することになっています。
このように、督促異議の申立てを行うと民事訴訟手続に移行することになりますから、申立ての際はそのことを視野に入れて、弁護士に相談してから進めるのがよいでしょう。
#2:督促異議申立書を作成して裁判所に提出または郵送する
督促異議の申立ては、督促異議申立書を作成し、支払督促を送ってきた裁判所に提出することによって行います。
窓口に直接提出でも郵送でも構いませんが、郵送する場合には、督促異議が認められる期限内の送達日から2週間以内に確実に到達するように気を付ける必要があります。
督促異議申立書は、ほとんどの場合、支払督促と一緒に裁判所から送られてきます。
なお、督促異議申立書には、異議申立ての理由を記載する必要はなく、簡単な記載事項のみで足ります。
記載事項や内容について不安や疑問がある場合にも、弁護士に相談・確認することをおすすめします。
#3:裁判所から呼出状が送達される
督促異議申立てが認められると、支払督促は効力を失い、通常の民事訴訟手続に移行します。
この場合、裁判所から第1回期日の呼出状が送達されます。
送達を受けた場合は、期日の1週間前までに答弁書を作成・提出する必要があります。
答弁書の書式や記載例は呼び出し上に同封されていますが、答弁書の作成を誤ると、債権者の主張が認められてしまうことになりかねません。
弁護士に手続を依頼することで、書面の作成から訴訟手続の代理を一任することができます。
(3)督促異議申立てを行わないリスク
債務者が期限内に督促異議の申立てをしない場合、債権者の仮執行宣言の申立てにより、支払督促に仮執行宣言が付されることになります。
仮執行宣言が付された支払督促は、裁判所から、債務者に対して送達されます。
この場合にも、債務者が異議申立てをすると、支払督促手続が終了し、通常の民事訴訟手続に移行します。
しかし、すでに付された仮執行宣言の効力は失われませんので、手続が民事訴訟に移行したあとも、債権者は強制執行の手続を行うことが可能です。
そのため、仮執行宣言付きの支払督促による強制執行を食い止めるためには、支払督促の送達を受けてから2週間以内に督促異議の申立てをする必要があります。
したがって、支払督促が裁判所から送達された場合には、速やかに弁護士に相談の上で督促異議の申立てを行うことが重要です。
2.督促異議申立てを行うべきケース
すでに述べたように、支払督促の送達を受けた場合には、督促異議申立てを行うことが重要です。
中でも、督促異議申立てを行うべきケースは以下のとおりです。
- 債務の支払ができない
- 債務が時効によって消滅している
それぞれ見ていきましょう。
(1)債務の支払ができない
支払督促に記載された金額の債務を支払えない場合には、督促異議申立てを行いましょう。
一括で支払うことはできないものの、分割による支払が可能であるといった場合にも督促異議の申立てを行い、民事訴訟手続の中で債権者と交渉することが可能です。
債権者がこれに応じるかは債権者の態度次第ですが、何もしないままだと強制執行を受けてしまうリスクがありますから、強制執行を食い止めるという意味でも督促異議の申立ては重要な意味があります。
民事訴訟に移行したあとの債権者との交渉については、専門知識や実務経験がなければ困難が伴いますので、弁護士に相談の上で手続の代理を依頼するのが重要です。
(2)債務が時効によって消滅している
債権者の権利(債権)は、一定期間行使されないと時効によって消滅します。
消滅時効の期間は、弁済期(借金や利息の支払期日)から5年であり、支払期日から5年経過すると時効が完成します。
しかし、期間の経過によって債務が自動的に消滅するのではなく、債務者から、債権者に対して債務が時効によって消滅したという効果を生じさせる意思表示(援用)をする必要があります。
時効の援用方法や注意点については、以下の記事で詳しく取り上げていますので、合わせてご参照ください。
3.債務の支払ができない場合の対処法
支払督促に記載されている債務の支払ができない場合には、督促異議の申立てを行った上で債務整理を行うことを検討しましょう。
債務整理は、借金の返済が困難な場合に返済義務の軽減または免除を受けられる制度です。
具体的には、以下の3つがあります。
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
順にご説明します。
(1)任意整理
任意整理は、債権者と返済スケジュールの見直しや将来分の利息のカットなどを交渉して、返済の負担を軽減する方法です。
元本までの減額が認められることは少ないため、元本を5年程度で分割して返済できる程度の資力が必要となります。
そのため、利息のカットをしてもなお、返済が困難という場合には、個人再生や自己破産を検討することになります。
(2)個人再生
個人再生は、裁判所に借金返済が困難であることも認めてもらい、一定の割合で減額した借金を原則3年で返済する計画について裁判所の認可を受け、そのとおりに返済することを条件として、残りの債務を免除してもらう方法です。
減額割合は借金の総額に応じて決められており、最大で10分の1まで減額されることとなります。
個人再生を行うためには以下のような要件を満たさなければなりません。
- 借金総額が5000万円以下
- 将来的に継続又は反復した収入が見込める
なお、個人再生については、以下の記事も参考になります。
(3)自己破産
自己破産は、裁判所に返済が困難であることを認めてもらい、手続の中で一定以上の価値のある財産は売却して債権者への支払にあてた上で、残りの借金の支払義務を免除(免責)してもらう方法です。
手続を進めて免責許可決定を受けられれば借金の支払義務が免除されます。
ただし、資産価値の高い財産は換価されるほか、手続中は一定の資格が制限されるため転職の必要が出てくる、ギャンブル、FX等の射幸行為によって借金を作った場合には免責を受けられない可能性があるといったデメリットもあり、自己破産を利用できないケースがあることには注意が必要です。
まとめ
本記事では、支払督促の異議申立ての流れや行うべきケースについて解説しました。
支払督促が裁判所から送達された場合には、記載された債務の支払ができない場合であっても放置せず、弁護士に相談の上で督促異議の申立てを行いましょう。
裁判所から支払督促が送達された場合には、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。
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