肩関節脱臼による後遺症が発生したときの対応とは?請求できる費用と適切な慰謝料を請求するためのポイント

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「交通事故で肩を脱臼して後遺症が残ってしまった」
「肩を脱臼したことで後遺症が残ったら慰謝料は請求できるのか」

交通事故の被害に遭った方の中で、肩関節脱臼のあと、後遺症が残ってしまい困っている方もいるのではないでしょうか。

本記事では、肩関節脱臼の後遺症が残ったときの対応や請求できる費用等についてご紹介します。

1.肩関節脱臼の後遺症が発生したときの対応

肩の関節は、肩甲骨と上腕骨をつなぐ部位であり、この関節を脱臼すると強い痛みが発生し、治療が終わったあとも肩関節の可動域が制限されるなどの後遺症が残る可能性があります。

肩関節脱臼の治療後に何らかの症状が残存した場合は、その症状が自賠法上の後遺障害等級に該当するかどうかの認定申請を行うことを検討するのがよいでしょう。

申請からその後の流れは以下のとおりです。

肩関節脱臼の後遺症が発生したときの法的対応の流れ

  1. 後遺障害等級認定の申請をする
  2. 加害者側と示談交渉をする

順にご紹介します。

(1)後遺障害等級認定の申請をする

後遺症が残ったら、後遺障害等級の認定の申請をしましょう。

後遺障害等級とは、障害の程度を14等級に分類したもので、1級が最も重くなっています。

後遺障害に関する賠償金を受け取るためには、後遺障害等級に認定されることが必要です。

肩関節の脱臼による後遺症について認定される可能性がある等級は、以下のとおりです。

障害区分(内容) 後遺障害等級 後遺障害の内容
機能障害

(肩関節の動作制限)

8級6号 1上肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの

:肩関節が硬直している

10級10号 1上肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

:肩関節の可動域が健康な関節と比較して2分の1以下に制限されている

12級6号 1上肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの

:肩関節の可動域が健康な関節と比較して4分の3以下に制限されている

神経障害

(疼痛の残存)

12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの

:症状の残存が画像等の他覚的所見により医学的に証明されている

14級9号 局部に神経症状を残すもの

:症状の残存が治療経過等から医学的に説明できている

以上の症状のいずれかに該当する場合、後遺障害等級の認定を受けられる可能性があります。

後遺障害等級の認定申請をする場合には、まず、医師に後遺障害診断書の作成を依頼することとなります。

後遺障害診断書を入手したあとの申請方法は2種類あります。

一つは、加害者側の任意保険会社に後遺障害診断書のみを提出する「事前認定」、もう一つは、被害者側で後遺障害診断書を含めた申請書類をすべて準備して加害者側の自賠責保険に対して提出する「被害者請求」です。

事前認定では、被害者側で後遺障害診断書以外の書類を準備する必要がありません。

そのため、申請のための被害者の負担は小さい手続ということができます。

しかし、申請書類を加害者側の任意保険会社が準備するため、被害者にとって不利な内容の書類があっても訂正などをすることができず、認定を受けられる確率が下がってしまう可能性があります。

一方、被害者請求は申請に必要な書類の作成や資料の収集をすべて被害者自身で行う必要があり、負担は大きくなってしまいます。

しかし、書類が適切な内容となっているか事前にチェックした上で申請を行うことが可能になるため、事前認定よりも後遺障害等級認定の可能性を上げることができます。

手続を弁護士に依頼すれば、書類収集の負担もかなり軽減できますし、内容のチェックもより専門的な視点で行うことが可能です。

そのため、後遺障害等級の認定申請を行う際には、被害者請求によるのがよく、その準備のため、まずは弁護士に相談されることをおすすめします。

なお、被害者請求による手続については以下の記事で解説しているので、合わせてご参照ください。

後遺障害等級認定の被害者請求とは?メリット・デメリットと主な流れを解説

(2)加害者側と示談交渉をする

後遺障害等級の認定を受けたら、加害者側と示談交渉をすることになります。

被害者請求による申請を行った場合には、加害者側の自賠責保険会社から後遺障害等級の認定結果の通知が届くのと同時に、認定結果に応じた自賠責保険金が支払われます。

この保険金は、最低限の補償を目的とした自賠責基準の金額にもとづくものとなります。

しかし、弁護士が用いる裁判所の基準を用いて算定すると、自賠責基準よりも賠償金が高額となることがほとんどです。

そこで、その差額分を、加害者側に対して請求し、示談交渉を行うこととなります。

事前認定の場合は、結果のみの通知が行われ、保険金の支払はありませんが、被害者請求と同じく、裁判所基準で算定した損害額を加害者側に請求し、示談交渉を行うこととなります。

このように、認定結果に基づいて示談交渉を行いますが、加害者側の任意保険会社は被害者自身からの請求の場合、裁判所基準での支払を認めにくい傾向にあります。

そこで、示談交渉は弁護士に依頼するのがおすすめです。

2.肩関節脱臼の後遺症で請求できる損害項目

後遺障害が認められた場合、傷害部分の損害(治療費、通院交通費、傷害慰謝料など)に加え、以下の2つの後遺障害特有の損害項目について請求できるようになります。

後遺障害等級の認定を受けることで請求できる損害項目

  1. 後遺障害慰謝料
  2. 逸失利益

順にご紹介します。

(1)後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、後遺症が残ったことによって生じる精神的な負担に対する補償で、等級ごと、算定基準ごとに請求できる基準額が定められています。

後遺障害等級 自賠責基準 裁判所(弁護士)基準
8級 331万円 830万円
10級 190万円 550万円
12級 94万円 290万円
14級 32万円 110万円

肩関節の脱臼による後遺障害に対して認められる慰謝料は、自賠責基準の場合最高で331万円となるのに対し、裁判所基準の場合は最高で830万円となります。

認定結果に応じてどのくらいの請求が認められる可能性があるのか把握しておきましょう。

(2)逸失利益

逸失利益は後遺障害が残ったことによって生じると考えられる将来の収入の減少分のことです。

後遺障害があると労働能力が制限されると考えられ、さらに、その制限によって収入も減少すると考えられます。

そのため、加害者に対し、予想される減少分の補償を求めることができるとされています。

逸失利益は、被害者の基礎収入および後遺障害等級ごとに定められた労働能力喪失率を用いて算出されます。

肩関節の脱臼による後遺障害について、各等級ごとの労働能力喪失率は、以下のとおりです。

後遺障害等級 労働能力喪失率
8級 45%
10級 27%
12級 14%
14級 5%

逸失利益の計算方法については以下の記事で具体的に解説しているので、あわせてご確認ください。

逸失利益をわかりやすく解説!種類や計算方法・発生するケースとは?

3.後遺障害慰謝料を適切に請求するためのポイント

後遺障害慰謝料を適切に請求するために押さえておくべきポイントがいくつかあります。

特に注意すべき点は以下の3つです。

後遺障害慰謝料を適切に請求するためのポイント

  1. 適切な等級の認定を受ける
  2. 適切な賠償金の金額を把握しておく
  3. 弁護士に交渉や手続を依頼する

順にご紹介します。

(1)適切な等級の認定を受ける

後遺障害慰謝料を適切に請求するためには、実際の症状に見合った等級の認定を受ける必要があります。

請求できる金額は、認定を受けた後遺障害等級に応じて決まるため、低い等級の認定しか受けられないと大きな差が発生してしまいます。

たとえば、機能障害を負った場合、8級6号と10級10号のどちらに認定されるかによって裁判所基準の基準額には280万円の違いが発生します。

後遺障害診断書など、申請の際に提出する書類の内容によっては、不利な認定がされかねません。

記入漏れや不適切な記載があると、本来認定されるべき等級よりも低い等級が認定されたり、非該当と判断されたりする可能性があるのです。

担当医に後遺障害診断書の作成を依頼するときは、必ず自覚症状を細かく具体的に伝えて記載するようにしてもらうなど気を付けるポイントがあります。

このように、後遺障害診断書の作成の段階から気を付けるポイントがありますので、その時点で弁護士に相談するのもよいでしょう。

なお、以下の記事で自覚症状を伝えるときに注意すべきポイントについて解説しているので、あわせてご確認ください。

後遺障害診断書での自覚症状の伝え方に要注意!押さえるべきポイント

(2)適切な賠償金の金額を把握しておく

示談交渉の内容をより良くするために、適切な賠償金の金額をある程度把握しておくことが大切です。

認定結果に応じて請求できる賠償金を把握していなければ、加害者側が提示してくる示談内容が適切かどうか判断することができません。

請求できる賠償金の基準額を把握していれば、加害者側保険会社の提示額がどれだけ減額されているかを判断することができます。

(3)弁護士に交渉や手続を依頼する

加害者側保険会社は、被害者自身との示談交渉では裁判所基準での賠償を認めない傾向にあります。

そこで、裁判所基準での賠償を請求する場合は、弁護士に依頼することになります。

これにより、加害者側保険会社の提示額よりも高額な賠償額での示談が期待できます。

また、後遺障害の申請の段階から、交通事故事件の経験のある弁護士に依頼しておけば、後遺障害診断書などの書類に問題がないかチェックをしてもらうこともでき、適切な後遺障害等級の認定を受けられる可能性も上がります。

弁護士に依頼することには以上のようなメリットがありますので、後遺障害等級の認定申請などに不安がある場合は、まず弁護士に相談してみることをおすすめします。

まとめ

交通事故を原因として肩関節を脱臼し、何らかの後遺症が残ってしまったら、後遺障害等級認定の申請を行うことを検討しましょう。

後遺障害等級の認定を受けたら、損害賠償額について加害者側と示談交渉を行うことになります。

適切な後遺障害等級認定を受けるためには、自覚症状を具体的に説明して、十分な内容の後遺障害診断書を作成してもらうことが大切ですし、その他の書類にも不備がないか確認することが重要です。

被害者自身で後遺障害等級の認定申請や示談交渉を行うことは大きな負担となるため、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人みずきでは、交通事故に関する相談を無料で受け付けておりますので、後遺障害等級認定の手続や示談交渉に不安な方はお気軽にご相談ください。

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執筆者 野沢 大樹 弁護士

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