遺留分侵害額請求権はいつまでに行使すればいい?遺留分侵害額請求の期限について解説

執筆者 実成 圭司 弁護士

所属 第二東京弁護士会

皆さまのご相談内容を丁寧にお聞きすることが、より的確な法的サポートにつながります。会話を重ねながら、問題解決に向けて前進しましょう。

「遺留分の権利はいつまでに主張する必要があるの?」
「だいぶ前に遺留分を請求できると聞いたけどまだできるのかな?」

本記事では、遺留分侵害額請求権を行使することができる期限やその期限の進行を止める方法などについてご説明します。

この記事を読んで、遺留分侵害額請求権を期限内に行使できるよう参考にしていただければ幸いです。

1.遺留分侵害額請求権の期限とは

遺留分とは、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹を除く相続人に対して、最低限認められている遺産の取り分のことをいいます。

遺産は、相続人のその後の生活を保障する機能を持っています。

遺留分は、そのような相続人の利益を保護するために設けられたものです。

遺言によって一部の相続人がすべての遺産を受け取ることになっているなど、相続人が遺留分を確保できない場合に認められているのが遺留分侵害額請求権です。

(1)遺留分侵害額請求権とは

遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害された相続人が、遺留分を侵害している人に対して、侵害額に相当する金銭の支払を請求できる権利のことをいいます。

遺留分侵害額請求権を行使すると、遺留分に不足する分の金銭を支払うように請求する権利が発生します。

このように遺留分侵害額請求権はその行使によって効果が発生するものであることから、「形成権」であるといわれます。

(2)遺留分侵害額請求権にはなぜ期限があるのか

遺留分侵害額請求権の行使に期限があるのは、民法が、一定期間継続した事実状態を保護することが目的です。

また、権利があるのにそれを行使しない人を保護する必要はないという考え方も基礎になっています。

(3)遺留分侵害額請求をしないまま期限が過ぎてしまった場合

遺留分が侵害された状態であるにもかかわらず、遺留分侵害額請求権を行使しないまま期限を過ぎてしまうと、遺留分侵害額請求権自体が消滅してしまうため、侵害された遺留分を受け取るこ

とができなくなります。

そのため、期限を過ぎてしまうことがないように注意すべきです。

2.遺留分侵害額請求権の3つの期限

遺留分侵害額請求権が消滅してしまう期限は、3種類あります。

具体的には、(1)相続開始と遺留分の侵害を知ってから1年、(2)相続が開始してから10年、(3)遺留分侵害額請求権を行使してから5年のそれぞれに注意する必要があります。

以下、それぞれの期限について説明します。

(1)相続の開始と遺留分の侵害を知ってから1年(民法1048条)

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しない場合には、時効によって消滅します。

ここにいう「相続の開始を知った時」とは、遺留分権利者が、①被相続人が亡くなったこと及び②自分が相続人であることの両方を知った時のことをいいます。

また、「遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時」とは、遺留分権利者が、実際に自分の遺留分を侵害するような遺贈または贈与があったことを知った時のことをいいます。

たとえば、遺留分権利者が、遺言書があることを知っただけでなく、遺言書の中に「全財産を××(他の相続人)に遺贈する」と書かれていることを知った時のことです。

遺留分侵害額請求権の消滅時効は、遺留分権利者が、これらを全て知った時から起算します。

なお、消滅時効の効果が発生するには、遺留分侵害額請求をされた側の人が、消滅効の効果を受けるとの意思表示(援用)をすることが必要となっています。

(2)相続が開始してから10年

相続が開始してから10年が経過すると、たとえ遺留分権利者が、相続が開始したことを知らなくても、遺留分侵害額請求権は消滅します。

ここにいう「相続が開始した」とは、被相続人が亡くなったことをいいます。

この10年の期限は「除斥期間」と考えられています。

除斥期間とは、その期間内に行使しなければ当然に権利が消滅する期間のことで、時効とは異なり、期間の更新や完成猶予ができません。

また、除斥期間の満了により、誰の意思表示もなく権利は消滅します。

つまり、被相続人が亡くなってから10年が経過すると、自動的に遺留分侵害額請求権は消滅し、遺留分侵害を主張できなくなります。

(3)遺留分侵害額請求権を行使してから5年

(1)や(2)の期限内に遺留分侵害額請求権を行使した場合に発生する金銭支払請求権について消滅時効が存在することにも注意が必要です。

この金銭支払請求権の消滅時効の期間については、民法の一般規定が適用され、5年と定められています(民法166条1項)。

そのため、遺留分権利者が遺留分侵害額を請求する旨の意思表示をしたとしても、5年以内に、金銭支払請求権を行使しないと、消滅時効が完成し権利が消滅してしまいます。

遺留分侵害額請求権を行使しただけで放置していると、せっかくの権利が消滅してしまう可能性があることを覚えておきましょう。

3.期限の進行を止める方法

遺留分侵害額請求権については、期限内に行使すれば、金銭支払請求権の消滅時効が問題となるだけです。

遺留分侵害額請求権の行使と、金銭支払請求権の消滅時効について注意すべき点について、以下でご説明します。

(1)遺留分侵害額請求権の消滅時効の停止

遺留分侵害額請求権は行使することにより、相手方に対する金銭支払請求権を発生させるという効果が発生します。

したがって、遺留分侵害額請求権については期限内に行使すれば足りるということになります。

遺留分侵害額請求権の行使は、相手方に対して、遺留分侵害額を請求する旨の意思表示をすればよいとされています。

意思表示の方法は限定されていないため、口頭での行使でもよいことになりますが、後になって相手方から請求の意思表示を受けていないと主張され、争いとなることが考えられます。

このような争いを防ぐために、書面の内容や相手方に送付された日時を証明することができる配達証明付内容証明郵便で意思表示を行い、これを証拠にすることをおすすめします。

(2)金銭支払請求権の消滅時効の停止

遺留分侵害額請求権を行使した後に発生する金銭支払請求権については、民法一般の規定が適用されます。

民法上、消滅時効の期限の進行を止める手段としては、催告、裁判上の請求、相手方との協議を行う旨の合意、相手方による債務の承認などがあります。

それぞれ効果が異なることもありますので、どのような手段を取るべきかについては弁護士に相談するのがよいでしょう。

4.遺留分侵害額請求の注意点

遺留分侵害額請求権の行使方法について、注意すべき点についても見ておきましょう。

次のように、期限にも関連して気を付けておくことがあります。

(1)話し合いで解決しない場合は調停を申し立てること

遺留分の問題は、原則として訴訟を提起する前に必ず家庭裁判所の調停の申立てをしなければならない、と家事事件手続法で定められています(調停前置主義)。

そのため、相続人同士の話し合いで解決せず、裁判手続によらざるを得ない場合には、調停を申し立てる必要があります。

調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることができます。

そして、調停手続の中で、調停委員が、当事者双方の間に入り、事情を聴取したり提出された証拠を確認したりして事案を把握した上で、話し合いでの解決を図ります。

調停での話し合いでは解決できず調停が不調に終わった場合には、訴訟の提起を行うことになります。

金銭支払請求権の時効を停止するための裁判上の請求も以上の流れに従って行うことになります。

(2)遺言の無効訴訟を起こす場合は必ず事前に遺留分請求をしておくこと

たとえば、真偽に疑義がある遺言書によって遺産全額の贈与がなされている場合などに、遺言書の無効を主張する場合には、同時に遺留分侵害額請求権を行使しておく必要があります。

過去の判例で、原則として、遺言無効の主張と遺留分侵害額請求権の行使は別のものとされています(最高裁判所昭和57年11月12日第二小法廷判決民集36巻11号2193頁)。

そのため、遺言の効力を争っている間に遺留分侵害額請求権の時効が完成してしまうということが生じます。

これを防ぐために、遺言無効の主張をする場合には、少なくとも遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をしておき、その時効完成を防ぐ必要があります。

(3)早期に弁護士へ相談すること

これまでご説明してきましたように、遺留分侵害額請求権は期限、効果、請求方法などに特殊な点が多いです。

そのため、注意すべき点が多く、それらについて具体的にどのように解決すべきかがわかりにくいものとなっています。

一方で、遺留分侵害額請求権は、被相続人が亡くなってから、最短で1年で消滅してしまうため、ゆっくり時間をかけて請求をするわけにもいきません。

遺留分侵害額請求権の行使に少しでも不安を感じられる方は、早めに弁護士に相談することを強くおすすめします。

まとめ

本記事では、遺留分侵害額請求権の期限の進行を止める方法や遺留分侵害額請求の注意点などについてご説明してきました。

弁護士に相談することで、複雑な遺留分侵害額請求を期限内に進めることができます。

遺留分侵害額請求等、相続についてお悩みの方は、専門家である弁護士に一度ご相談になることをおすすめします。

弁護士法人みずきでは、相続のご相談を随時承っております。お気軽にお問い合わせください。

執筆者 実成 圭司 弁護士

所属 第二東京弁護士会

皆さまのご相談内容を丁寧にお聞きすることが、より的確な法的サポートにつながります。会話を重ねながら、問題解決に向けて前進しましょう。